国際学会「2018 Symposia on VLSI Technology and Circuits」(米国ハワイ州ホノルルで6月18日~22日に開催)のセッションC-7「Time-of-Flight and Advanced Image Sensors」では、Society 5.0に代表されるサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を融合させた社会の実現に向けたイメージングデバイスの発表が相次いだ。主流であるスマートフォンやデジタルカメラに搭載される観賞を目的としたイメージセンサーだけでなく、自動運転や高度なファクトリーオートメーション、生物医学用途などの機械の眼に特化したイメージセンサーに、研究開発への期待が移りつつあることを感じさせた。

 このセッションの注目論文として、静岡大学とブルックマンテクノロジ、千葉大学が共著した「A Two-Tap NIR Lock-In Pixel CMOS Image Sensor with Background Light Cancelling Capability for Non-Contact Heart Rate Detection」(講演番号 C7-4)を挙げられる。自動運転への期待から様々なセンサー技術が車載用途に開発されているが、完全な自動運転(レベル5)が実現されるまでは、ドライバーの健康状態や心理状態をモニターすることが安全性を担保する上で有効とされている。この発表では、ドライバーに向けて近赤外光を照射し、その反射をセンサー内で効果的に抽出することで、顔表面の血流(ヘモグロビン)から観察できる脈拍を非接触で検出する(図1)。

図1●ドライバーをモニターする系。静岡大学とブルックマンテクノロジ、千葉大学の図
図1●ドライバーをモニターする系。静岡大学とブルックマンテクノロジ、千葉大学の図
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 近赤外光をパルスで繰り返し照射し、照射パルスのON期間とOFF期間のそれぞれを振り分けて蓄積する構造を画素内に実装することで、太陽などの背景光があたっても照射パルスのON/OFF差を低ノイズで読み出すことができるため、複雑な背景光除去の信号処理をせずに脈拍を検知可能である(図2)。1280画素×1024画素のプロトタイプでは、さまざまな周波数で揺れる背景光が混在しても、99%前後の精度で心拍数の検出に成功しており、ドライバーに負荷をかけずにモニターすることを可能としている。

図2●開発したセンサーの構造と動作。静岡大学とブルックマンテクノロジ、千葉大学の図
図2●開発したセンサーの構造と動作。静岡大学とブルックマンテクノロジ、千葉大学の図
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