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 帝人がRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入を加速している。2017~2018年度に2段階のフェーズで取り組んだ試験導入がスムーズに進み、業務削減の効果も確認できたことから、2019年度から本格導入フェーズへと移行した。RPAの導入プロジェクトを率いた業務変革推進室の井上匡人氏が2019年10月11日、「日経 xTECH EXPO 2019」(2019年10月9~11日、東京ビッグサイト)で講演し、試験導入フェーズで心掛けた「4カ条」など、導入の経緯を紹介した。

帝人 業務変革推進室の井上匡人氏
帝人 業務変革推進室の井上匡人氏
(撮影:中村 宏)
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 同社は2017年7月ごろにRPAの導入に向けた調査を開始した。コンサルティング会社の協力を得てRPAツールを比較検討し、UiPath社の「UiPath」を選んだ。2018年には「業務変革推進室」とその下部組織として「RPA開発推進グループ」を新設。同グループ内で2018年4月からソフトロボットの開発に取り組み、第1フェーズとして2018年7月から人事・総務と経理・財務の17業務にRPAを試験導入した。

 「一般にRPAの導入は人事・総務や経理・財務など、定型業務が多くRPAに取り組みやすい領域から始めるケースが多いと聞いており、当社も第1フェーズではそうした領域に絞って検討した」(井上氏)。実際に導入効果は大かった。業務時間は人事・総務の10業務で導入前の年間1598時間から導入後は同96時間に減った。経理・財務の7業務では同1140時間から同248時間に減った。

 第1フェーズでの効果を踏まえて、2018年秋からは高分子素材や複合材料などの「マテリアル」や医薬品などを扱う「ヘルスケア」といった主力事業でRPAの導入に着手した。2018年末から2019年初頭にかけて、マテリアルの7業務とヘルスケアの10業務でソフトロボットを稼働。第2フェーズでの導入効果は未集計というが、「各部門からは『さらにソフトロボットをつくってほしい』という声が届いており、一定の効果があったのではと思っている」(井上氏)とした。2019年度に入ってからは本格導入フェーズへと移行している。

外部の知見を入れ、社内に味方を増やす

 RPAのスムーズな導入・浸透を実現した背景として井上氏は、試験導入のフェーズで4点の基本方針を重視していたと挙げる。第1は外部専門家の知見の積極的活用だ。帝人の場合、「2017年時点では『RPAとは何か』というところから始め、自社にRPAの知見がない状態だった」(井上氏)といい、コンサルティング会社の協力により自社に合うRPAツールを選べたほか、RPAを推進するための組織づくりのアドバイスも得られたとした。具体的には、業務変革推進室内にRPA開発推進グループを新設し、導入に向けた調査を担うチームとソフトロボットの開発・保守を担うチームを設けた。

 第2は中長期的な視野に立ち、RPAの導入業務をRPA開発推進グループが一手に担う「集中管理型」にした点だ。現場の各部門ではソフトロボットを開発・保守せず、WebブラウザーからRPAのジョブ実行命令を出すだけとした。ソフトロボットはRPAの管理ツールをインストールしたパソコンでのみ動作させており、トラブルやアップデートへの対応を同グループが迅速にできる体制をつくった。「RPAの導入効果の即効性という点では分権型のエンドユーザーコンピューティングに分があるが、RPAを全社的な取り組みとして発展させ、効果を持続的に拡大させることを考えると集中型のほうがよい」と井上氏は指摘した。

 第3は社内にRPAの支持者をつくる取り組みだ。「プロジェクトの初期段階では(RPAに対し)ネガティブな意見を言ったり懐疑的な考えを持ったりする社員も多いと考えた。実際、多かった」(井上氏)。そうした社員の多い部署に無理にRPAを導入するのでなく、まずは「協力的な部署や担当者がいるところに導入した」(同)。そうした部署への試験導入で実際にRPAの効果を実感してもらえれば、その後の導入フェーズで味方になってくれ、スムーズに導入が進むというわけだ。

 第4は事業部門間のバランスへの配慮だ。「帝人には複数の事業がある。生い立ちは様々で、部門ごとに特有のルールもある。そうした考え方に配慮が必要だと考えた」と井上氏は振り返った。ある部門の業務でRPAの効果があったからといって、他部門の類似業務にしゃくし定規に横展開するのではなく、それぞれの現場と丁寧に向き合う姿勢が大切だとする。とはいえ、全部門で同一の業務をしているはずが、長年の慣習で各拠点の業務フローが少しずつ変わってきたようなケースでは、「非効率な業務フローはRPAにとっても非効率。いったん各拠点の同一業務を集めてフローを整流化・最適化すれば、複数部署が使えるRPAを導入できて効果も大きくなる」と指摘した。

 2019年度以降の本格導入フェーズではRPA導入の前段に当たる業務手順の可視化に力を入れている。「社内のどこにどんな業務があるか、それらの業務はどんな手順なのか、それらの手順はRPAにできるのか、もっとよい手順はないかなどを把握して、RPAを幅広く展開していく。併せて全社レベルで業務を把握して、無駄の効率化や重複業務の統合もしていきたい」。井上氏はこう展望した。

 業務変革推進室はRPA以外にも、社内の問い合わせ対応の窓口としてチャットボットの活用を始めたほか、ITを活用して在宅勤務やテレワークを今後進める方針とする。井上氏は「人材のROA(総資本利益率)を向上させるような『デジタル人事部』といった存在になっていきたい」と宣言して講演を締めくくった。