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 米国と中国が激しく関税をかけ合う「米中貿易戦争」は一向に収まらず、日本企業も生産や調達の戦略について再考を求められている。そんな中、サプライチェーンマネジメントのコンサルタントである未来調達研究所取締役の坂口孝則氏が、「米中新冷戦時代の日本企業が取るべきサプライチェーン戦略」と題して、「日経 xTECH EXPO 2019」(2019年10月9~11日、東京ビッグサイト)で講演した。同氏は、日経 xTECHにおいてもコラム「米中新冷戦時代のサプライチェーン」を連載している。

未来調達研究所取締役の坂口孝則氏
未来調達研究所取締役の坂口孝則氏
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 米中貿易戦争を巡っては、米国が制裁関税の第4弾の実施を発表したばかりだ。第4弾では、米アップル(Apple)の「iPhone」などスマートフォンも対象になることから、影響の大きさが指摘されている。坂口氏は、この第4弾が始まる2019年12月15日という日程に着目すべきだという。「12月15日は、クリスマス商戦に向けた製品を輸入し終わっている時期。つまり、米国は口では『中国はいらない』と言いつつ、実際には相当な影響があると考えているのではないか」(同氏)。

 そもそも、米中貿易戦争がここまで激しくなった背景には、米国が「中国は米国の技術を盗んでいる」と考えていることがある。米国は「中国の技術移転戦略」として10の手法を挙げているが、その中で非合法といえるのは「サイバー攻撃」と「産業スパイ」の2つだけであり、残りの8つは「米国企業の買収」「米国人研究者・技術者のリクルート」「オープンソース情報の活用」といった合法的なものなので、今後も構造的な技術移転は進むと坂口氏は見る。

 「中国の言っていることをうのみにできないが、特区の取り組みなどもあって一部の技術が非常に進んでいるのは確か」(坂口氏)。さらに、中国は約14億人の人口を抱える重要な市場でもあり、日本が中国との関係を完全に断ち切ることはあり得ないと同氏は指摘する。

 それでは、日本企業は今後サプライチェーン戦略をどう考えていけばよいのか。坂口氏は3つの論点を示した。その3つとは、(1)現地調達・現地生産への回帰、(2)輸入限界係数に基づいた最適調達・生産地の見極め、(3)中国に偏っていた調達・生産を分散させる国の開拓、である。

 (1)の現地調達・現地生産について、かつて坂口氏は製造業の調達業務に従事していた経験があり、そのときの勤務先は半ば宗教のように「現地調達・現地生産」を“信仰”していたという。当時、坂口氏は「それぞれ得意な国で集中的に調達・生産」した方が良いのではないかと考えていたが、米中貿易戦争をはじめとする昨今の情勢を受けて、現地調達・現地生産を再評価するようになったという。

 そもそも、中国に工場が集中するようになったのは、人件費などの観点から先進国の工場がどんどん中国に移転したからだった。だが、自動化技術の発展によって、先進国での生産が現実的になり、現地調達・現地生産という考え方が「亡霊のようによみがえった」(坂口氏)。その例として、3Dプリンターとロボットで靴を自動生産するドイツ・アディダス(Adidas)の「スピードファクトリー」が挙げられるという。

 (2)の輸入限界係数とは、例えば日本企業が「日本で生産する場合」と「別の国(A国とする)で生産し輸入する場合」のコストを比較する場合、以下のような式で表される。

輸入限界係数=日本生産コスト(単位は日本円)/A国生産コスト(単位はA国通貨)

 そして、この輸入限界係数を、日本円とA国通貨の為替レートを比べる。輸入限界係数が為替レートよりも大きければ大きいほど、A国から輸入した方が有利であることを意味する。

 坂口氏は、今こそ日本企業はあらゆる部品について様々な国を対象に輸入限界係数を再計算し、調達・生産地を最適化した方が良いと語った。

 (3)の調達・生産の分散については、特にASEAN(東南アジア諸国連合)に注目すべきだという。現在、ASEANでは「東西回廊」「南北回廊」「南部回廊」といった物流網の整備が進み、新たな経済圏が生まれようとしている。実は、これらの物流網は中国の昆明市という製造業の盛んな都市が起点になっているという。つまり、中国が原油などの原材料を輸入したり、自国の工業製品を輸出したりするインフラという側面もあるのだ。これに日本企業も乗っからない手はないという。

 その上で、坂口氏は日本企業が調達・生産を分散させる国の有力な候補の1つとして、ミャンマーを挙げた。ミャンマーは「1カ月で従業員の1/3が辞める」(同氏)ぐらい人材の流動性が高いなどの問題もあるが、工場作業者の平均月給は約1万6000円とコスト競争力は高い。スモールビジネスが流行するなど、産業活性化の機運も高まっているという。