「“ゼロインパクトカー”を目指していく」――。こう宣言するのは、ドイツ・ダイムラーで社長を務めるオラ・ケレニウス(Ola Kallenius)氏である。
同氏は2020年1月、世界最大級のテクノロジー関連の展示会「CES 2020」で基調講演の舞台に立ち、地球に悪影響を与えないゼロインパクトカーの実現を目指していく方針を鮮明にした。その考えを表現したコンセプト車「Mercedes-Benz VISION AVTR」を披露した(図1、2)。
経済性の追求ではなく、環境性や社会性を重視するようになった世の中の流れに沿う姿勢を示した格好だ。クルマを悪者にしないための取り組みと言い換えてもいいだろう。
Daimlerは、自動車業界の競争力となる技術開発の方向性を表したキーワード「CASE」を最初に使った企業だ。当時社長だったディーター・ツェッチェ(Dieter Zetsche)氏が2016年秋に使った。その“CASE生みの親”からDaimler社長のバトンを受け継いだKallenius氏がCASEに続く自動車開発の方向性として、今回のCESで打ち出したのがゼロインパクトカーだった。
自動車業界の“ゼロ”と言えば、走行中に二酸化炭素(CO2)を出さない「ゼロエミッション」が主流だが、Daimlerは“ゼロ”の範囲を拡大させた。Kallenius氏は「電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)といった車両だけでなく、部品供給網(サプライチェーン)を含め生産過程を持続可能なものにする必要がある」と訴えた(図3)。
EVやFCVに注力する戦略はKallenius氏が社長に就任した2019年5月に始めたもの。2039年に発売する新車から、乗用車が排出するCO2を実質ゼロにする計画だ。走行中のゼロエミッションの達成にはEVやFCVは有効だが、車両の生産や廃棄などの段階における環境影響は考慮していなかった。