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 2月18日と19日の2日間に渡り、ザ・プリンスパークタワー東京で東京デジタルイノベーション2020が開催された。18日午前10時からは、セミナー会場Aにおいて、経済産業省の中野剛志氏[製造産業局 参事官(イノベーション・デジタルトランスフォーメーション担当)ものづくり政策審議室長]が「“Connected Industries”政策の新展開」と題するキーノート講演を行った。その模様を紹介する。

経済産業省中野剛志氏
経済産業省中野剛志氏
製造産業局 参事官(イノベーション・デジタルトランスフォーメーション担当)ものづくり政策審議室長(撮影:稲垣宗彦)
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 中野氏はそのスピーチの冒頭で、2008年から10年以上に渡って不確実性指数が高まっていると語った。ブレグジット、ポピュリズム、保護主義など、先行きを不透明にする出来事が昨今は何かと続き、地政学リスクは高まっている。こうした流れを指数化し、検討してみるとその転換点は2008年にあると読むことができるという。

「不確実性」は世界の“メガトレンド”

 不確実性の高まりは、10年以上続く「世界のメガトレンド」なのだと中野氏は指摘する。つまり、誰かがどこかの政権を担当したから起こったわけではなく、その人がいなくなれば収まるという単純な話ではない。同時に、2008年をターニングポイントとして、その前後で何が正しく、何が間違っているかが大きく入れ替わっている可能性についても指摘。不確実性の高い現状にあわせ、考え方を変えていく必要があるとも語った。

 しかし中野氏は「この考え方を変えるというのがとりわけ役人には難しい」と苦笑いを浮かべる。日本の製造産業や経済がこうあるべしと経産省をはじめとする省庁の“役人”が語るとき、今でも冒頭に「グローバリゼーションが進むなかで」といったお決まりの接頭語をつけてしまいがちだが、これに疑問符がつく事態に陥っているのが現状であるという。

 実際、中野氏が提示した資料によれば、世界経済の開放指数と不確実性指数には相関が見られ、リーマン・ショックの頃から始まったグローバリゼーションの後退は、不確実性指数の高まりとともに深まっている傾向が示されていた。中野氏は続けて昨年の4月にIMFが発表した世界経済見通しにも「不確実性指数」と「地政学リスク」は取り上げられていたと指摘。これらの要素は世界経済の下降圧力になっているとIMFは警鐘を鳴らしていたと語った。

2008年を境に世界の政策不確実性指数は高まった
2008年を境に世界の政策不確実性指数は高まった
さらに政策不確実性指数は世界経済の開放指数と相関関係がある(出所:経産省)
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不確実性の高まりがCASEの進展を阻害

 中野氏は政治的リスクを専門としたコンサルティング会社として世界最大のユーラシアグループですら「英国のEU離脱(ブレクジット)をリスクとして評価できなかった」と指摘する。同社が2019年春に発表した「トップリスク2019」のなかでは英国のEU離脱(ブレクジット)を欄外に書いていたからだ。「それくらい先が読めなくなっている」(中野氏)。

 トップリスク2019に掲げられた10項目のうち、経産省としてもっとも見過ごせないのは「イノベーション冬の時代」だと中野氏は語った。これは起こりうるリスクへの対処や政治的な圧力によって、イノベーションへの財政的、人的な資本の投入を減らさざるを得ない時代に向かっていることを意味する。

 セキュリティ上の懸念によって、各国政府が安全保障上の観点から外国のサプライヤーとの関わりを減らす中国ファーウエイ(HUAWEI)のような事例(1)。個人情報保護に関する懸念から各国政府が国民のデータ利用方法を厳格化するなどその扱いの先行きが見えない状態に陥るEUのGDPRのような事例(2)。経済上の懸念から、AI産業や量子コンピューターといった国内の重要産業を各国が囲い込むといった事例(3)。こうした懸念が引き起こす政策などがイノベーションを阻害するというのだ。

 中野氏はその例として、自動車業界の「CASE」を挙げた。

 CASEとは、「Connected:コネクティッド化」「Autonomous:自動運転化」「Shared/Service:シェア/サービス化」「Electric:電動化」という4要素の頭文字を取った自動車業界が目指すべきだとされる戦略のこと。同氏によれば、CASEは不確実性の高まりによって、重層的な政策不確実性に直面しているという。

 具体的にはConnectivityに必要な車両データの収集やビッグデータの解析が(1)の理由から、Autonomousについては自動運転技術の開発や自動車メーカーとIT企業の連携が(1)や(3)の理由からといった具合に、4つの要素それぞれにイノベーションが阻害されるリスクを抱えていると中野氏は指摘する。

 技術的なイノベーションに関しては比較的進む方向性とそのタイミングの予測がしやすい。しかし、これを阻害する政治的要因は読むのが難しい。巨額の投資を行ったとしても政策の変更で無駄になる可能性を考えると、投資を抑える判断が賢明と言える。こうした状況こそが「イノベーション冬の時代」というわけだ。

「CASE」は重層的に不確実性のリスクに直面
「CASE」は重層的に不確実性のリスクに直面
中野氏によると自動車業界の掲げる「CASE」は重層的に不確実性のリスクに直面している(出所:経産省)
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