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本当の「幸せ」は、お金や地位ではなく、自分の意志で自由に振る舞えることにあるのではないか――。日本を代表するマーケターで、注目のテックカンパニーであるプリファードネットワークスでCMO(最高マーケティング責任者)を務める富永朋信氏が、行動経済学から「幸せのニューノーマル」に迫る。(聞き手は島津 翔=日経クロステック 副編集長)

島津 今日は、マーケティングの専門家で、現在はプリファードネットワークス(Preferred Networks)でCMOを務めている富永さんに行動経済学で幸せになる方法をお聞きします。まず、「行動経済学と幸せの関係」って何でしょうか。

富永 行動経済学というのは、人間の非合理的なところを体系化して、それをバイアスという形で表現したものの集大成です。これを勉強すると、人間がいかに論理的じゃないところで意思決定をしてしまうかが分かります。

対談の録画を日経クロステックがキャプチャー
対談の録画を日経クロステックがキャプチャー
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 行動経済学と幸せの関係ということですが、「足るを知る」が何を言いたいのかをお話しします。年収が初めて1000万円に到達したときの喜びを、私はよく覚えています。しばらくしたら、同僚が私よりも早く1000万円をもらっている、しかも今は1200万円もらっていることが分かったときの悔しさ。これ不思議ですよね。それまであんなに誇らしかった1000万円が、なんか妙にチンケに感じちゃうわけですよ。

 何が起きているかというと、それまでは世間一般の給与水準を基準にして、1000万円もらったら「イケてる人」だという、「世間」対「自分」の比較で1000万円を評価していたものを、同僚の1200万円を知った日には、それまでの1000万円が相対的に「へっぽこ」に思えてしまうんです。

 これは面白いですよね。何かを評価するのに、何かと比べて評価する癖が人間にはあって、しかも比べる対象がころころと恣意的に変わるわけです。そしてこれをやっていると、お金なんかいくらあっても満足できない。事実、米国の行動経済学の調査で、一番幸せな収入枠は8万ドルぐらいをピークにして、そこから先はバラバラになるというデータがあるんです。

 人間ってそういう風に恣意的に基準点を作って、それと比べて評価したいということや、いくらあっても欲しくなるということを知って、それが不幸せの源泉になるってことを知る。だから、足るを知る、ある程度あったら満足する、ってことが大事だと知ると、人間は幸せに一歩近づくと思うんですよ。