暮らしやコミュニケーションに欠かせない「音」と「声」。人の心を落ち着かせたり、モチベーションを高めたりと、精神的な効果は大きい。では音や声はどんな「幸せ」をもたらすのか。声優として活動しながら作詞作曲や楽曲提供、立体音響コンテンツ「ASMR」のレーベル立ち上げまで手掛けている小岩井ことり氏に語ってもらう。(聞き手は東 将大=日経クロステック/日経エレクトロニクス)
東 今日は、アニメやゲームの声優を本業としながら、作詞や作曲をしたり、スタジオを作ったりと、多彩な活躍をされている小岩井さんに、音や声と幸せの関係性をお聞きします。私が最近気になっているのは、「良い音ってどういう音?」ということなんです。小岩井さんはどうお考えですか。
小岩井 数値的に言うと、サンプリングレートやビットレートなど、画像の解像度が高いのと同じように、音の解像度が高いことが一般的には「良い音」だと思います。また、言葉やコミュニケーションにおける良い音とは、伝えたいことや要素をきちんと伝えられる音だと、私は考えています。
逆に、言いたかった言葉がノイズで消されてしまって伝わらないとか、何度も聞き返してちょっと気まずい感じになってしまうとか、こういう場合は「少し困った悪い音」かなと思います。
皆さんが一聴して「悪い音」だと感じる音声の1つに、過大入力で収録した音声があります。最近の会議アプリなどは、自動調整がすごく優秀になっているのであまり起こらないのですが、昔はよくありました。入力の感度を高くし過ぎて、いわゆる「割れてしまう」という表現をされる音です。
最近の会議アプリなどでコミュニケーションをとるときに、一番よく起こっていそうな悪い音が、雑音消去機能を効かせ過ぎた音声です。空調の音や外部の音を取り除くための機能ですが、強くし過ぎると、ある一定以上の音量の音や声を消してしまいます。言葉に含まれる子音まで消してしまうので、「さ」と発音したのに「あ」だけが聞こえて、何を言っているのか、伝わりにくい音声になっちゃいます。
東 最近はいろんなビデオ会議のツールが出ていて、ソフトによっても音って変わるんですよね。
小岩井 そうですね。ソフトによって指向性が異なるので、世の中の人々がビデオ会議とか、そういったものでコミュニケーションをとるようになったときに皆さんのお役に立てたらと思って、有名なソフトを比較してみたことがあります。例えば「ホワイトノイズ」と呼ばれる全周波数帯で同じ強度で出しているノイズを、それぞれのソフトに通して、どういうところが少なくなったり強調されていたりするのかを研究してみました。
東 小岩井さんのお気に入りのツールで、これを一番使いたいというものはありますか。
小岩井 研究したときから時間がたっていて、会議アプリも日夜、色々と研究を重ねているので変わっているとは思うんですけど、原音に一番近いのは「Discord」でしたね。ただDiscordでも、設定の仕方によって全然違いますし、ゲート機能などもうまく使えばより良い音で伝わります。人によって、ケースによって、それぞれ良い音は違ってくるので一概には言えないです。