「起業家にとって魅力的な場所はむしろ地方にある」――-アプリ開発や利用者分析サービスなどを手掛けるフラー(新潟市)の創業者である渋谷修太会長は、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに出身地の新潟県へUターン移住した。愛する故郷で生き、愛する故郷のために働くという、新型コロナの時代に生まれた、デジタル社会の新たな幸せの形を探る。(聞き手は外薗 祐理子=日経クロステック/日経コンピュータ)
外薗 渋谷さんが今年(2020年)の5月17日にUターン移住の決意について書かれたnoteの一節に、「ITの力を使えば、イノベーションの余地が無数にあります。イノベーションの種は"不便さ"だとすると、地方こそイノベーションを起こしやすいはずなのです。」とありました。実際に移住して半年ほどたち、移住前に立てた仮説を今ご本人の中でどう思っておられるのか。今、新潟ではどんな活動をされていますか。
渋谷 会長になったというきっかけもあって、僕自身は会社のオペレーションというよりは、未来をつくるというか、社外の渉外活動などに時間を割いています。新潟でやっている活動は主に3つあります。
1つめは「新潟」。地域の経済に関することや地域の活性化になることです。新潟ベンチャー協会の活動や、最近ではアルビレックス新潟というサッカーJリーグ2部(J2)のオフィシャルパートナーをやらせていただいています。試合もできる限り見に行っています。
2つめは「高専」です。今、母校の長岡工業高等専門学校の客員教授もやらせてもらっていますが、高専にはすごく可能性というか、未来があるなと思っています。なぜかというと、日本の技術者の10人に1人が高専生と言われています。ほとんどの都道府県に高専があって、その大半が東京以外の所にあるんです。地方のデジタル化や、日本全体のデジタル化が叫ばれている中で、高専生の価値は今の時代に一番発揮できるんじゃないかなと思っています。彼らがITの世界に入ってくる、もしくは起業するといったことを、僕自身の経験からサポートできればというのが2つめの活動です。
3つめは「起業家育成」です。新潟県は特に起業率が低いことから、起業家育成とか起業家創出がすごく大事とされています。僕自身、10年ほど起業家として生きてきているので、後輩の起業家には「楽をしてほしい」というわけではないんですが、少なくとも自分よりはスムーズに事業や会社を成長させることができるように支援していきたいなと思っています。いくつかスタートアップのアドバイザーをやっています。
外薗 ちょっと意地悪な質問をすると、移住を決断できたのは、渋谷さんが起業家で経営者だからじゃないかと。普通のサラリーマンに、そんな生き方は難しそうだし、地方移住に興味はあるけど会社勤めだから無理そうだし、と思われる方がいるかと思うんです。そういう意見についてはどうですか。
渋谷 今の時代、リモートワークを導入している会社が多くなっていて、やらざるを得ない会社も増えてきています。リモートワークOKな会社とそうじゃない会社があったとき、OKな会社のほうが人気になっていくのは自然な話で、「どこでも働いていいよ」というほうが、人間にとって良いに決まっています。自分のように地方に移住して、かつ会社をつくる方も、ここ半年でかなり増えてきました。
仕事を選んでそこにひもづいて住処(すみか)を決めるというよりは、「どこに住みたいか」です。本当に移住の決断をしたいのであれば、まず自分のライフスタイルや住む場所を第一優先に置いて、それを実現するためにはどういう働き方をしなきゃいけないのかと考えていけば、誰しもが実現できることかなと思います。