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 「人目を引くスタイル、群を抜く画質・音質とVR機能で、これまでにない圧倒的なVR体験を提供したい」――こう話すのは、パナソニックの小塚雅之氏(アプライアンス社 事業開発センターXR総括 兼 技術本部デジタルトランスフォーメーション開発センターXR総括)である。小塚氏はかつて、パナソニック・ハリウッド研究所の所長を務め、その後、ブルー・レイ・ディスク(Blu-ray Disc)の規格策定で主役を演じ、HD-DVDとの光ディスク戦争で勝利に貢献した人物だ。

 今、小塚氏が挑戦するのがVRグラス(VRHMD)。今後、5Gの普及、VRコンテンツ制作の活発化で、間違いなくVRのニーズが高まるとはいえ、現在の低画質で重量級のVRHMDに未来はないとする。「リアルとバーチャルの区別がつかないくらい、高度な臨場感実現を目指します。我々はテレビメーカーですから、画質、音質を徹底的に磨き上げます。大きく重いという現状のVRHMDの問題を鮮やかに解決してみせます」(小塚氏)。

 そのために3つの目標を高く掲げた。

(1)画素構造が見えない高い解像度:画素/度が重要。スクリーンドア効果(画素構造が見えてしまう)を撲滅するためだ

(2)画像が本物に見える十分なダイナミックレンジ:そのためにHDRを導入する

(3)没入感を支援する高音質:VRとして最適なオーディオを開発する

 画質の要であるディスプレーデバイスは、米Kopin(コピン)のマイクロOLED。マイクロOLEDとは、従来の大型OLEDディスプレーのようにガラス板に有機ELを蒸着するのではなく、プロジェクターで使われるLCOS(LCD On Silicon)のように、シリコン(Si)ウエハー上に超小型OLEDディスプレーを作る(いうなれば“OLOS”だ)。駆動回路と一体化した構造であり、動作が非常に速い。そのため動きボケもない。

米KopinのマイクロOLED(2560×2560画素)が搭載されている
米KopinのマイクロOLED(2560×2560画素)が搭載されている
出所:パナソニック
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 昨年(2020年)の試作機は1インチ型4K相当の解像度だったが、当時、商品化に向けては1.3型/2560×2560画素(5K相当)を搭載予定と話していた。今年(2021年)はその言葉の通り、新型パネルへ高解像度化されていた。このパネルにより、画素構造/網目が見えるスクリーンドア効果をなくしたとする。

 パナソニックの柏木吉一郎氏(アプライアンス社 技術本部デジタルトランスフォーメーション開発センターデジタル空間推進室 室長)は「実は昨年モデルと今年モデルでレンズは同じです。昨年の2048×2048画素では、四隅が欠けていましたが、今回の2560×2560画素では隅まで目いっぱい、映像になりました。またHDRは昨年試作機から導入していましたが、今回は輝度が上がったので、HDR効果も向上しました」と明かす。

 今回のCES 2021は完全オンライン開催となり、リモート取材で現物は見られなかったが、CES 2020のときの画質も良かったから大いに期待できよう。筆者は当時、その画質をこう評価していた。「従来のVRグラスは、ボケてる、色がない、Dレンジが狭く黒浮き白飛びするのが、画質を語る上で致命的でした。本製品ではHDRによってコントラストが飛躍的に高まり、生々しい映像でした」(出典:『麻倉怜士の大閻魔帳』、AV Watch、インプレス)。

 VR機能では大きな飛躍があった。6DoF(Degree of Freedom)に対応したことだ。しかも外部センサーなしのInside Out方式を採用している(後述)。ちなみにDoFとはVRグラスやVRゴーグルを装着した人の動きをどうセンシングするかの尺度である。「自由の度合い」という意味だ。これには3軸(3DoF)と6軸(6DoF)があり、3DoFはX軸・Y軸・Z軸の回転という3つの動きにのみ対応し、頭の回転や傾きだけを感知する。6DoFは、さらにこの3軸がそれぞれ移動する情報も取る。従って、装着者の動きを全周で緻密に得ることができる。

6DoFに対応し装着者の動きを全周で緻密に得る
6DoFに対応し装着者の動きを全周で緻密に得る
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 これまで6DoFを実現するに当たっては、部屋に多くのセンサーを取り付け、そこからユーザーの動きをセンシングしていた(Outside In方式)。ただし、これでは設備がとても大がかりになってしまう。パナソニックは、VRグラス自体に内蔵されたカメラやセンサーで自律的に移動量を計測するようにした。これがInside Out方式だ。「軽量、小型の本体に6DoFのInside Outを入れ込むのはかなり大変でした」(柏木氏)。

 音に関しては、2020年モデルはイヤホン接続だったが、2021年モデルはステレオスピーカーもテンプル部に搭載した。周りの音を聴くときはスピーカーから、没入体験はイヤホンからという使い分けができる。目標となった軽量化については、まだ開発している最中なので、確定していない。VRグラス自体に電源やプロセッサーは搭載しない。USB-Cで5G対応Androidスマートフォンやパソコンと接続して使用する形だ。

ステレオスピーカーをテンプル部に搭載
ステレオスピーカーをテンプル部に搭載
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 今後は、今あるVRアプリケーションの再生はもちろんのこと、もっと先には、ホームエンターテインメント活用が開けてくる。従来のテレビは空間の中で2次元を見ていたのに対し、VRは空間そのものに入って3次元を見る。そうなると、映像文化も当然変わるはず。

 小塚氏のコメントが示唆的だ。

 「中国の大学生は、みんな寮に入るので、部屋が狭い。だからテレビは買わずに、スマホでテレビを見ています。でもそれでは画面が小さいので、スマホをVR画面として箱に入れて見ています。つまり大画面ディスプレーとしてVRを見ているのですね。今後、小さくて、軽い、そして高画質なVRグラスは、そんな使われ方をされるのではないでしょうか」(小塚氏)。