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 小さなボールが一瞬で大きくなる知育玩具「スフィアボール」。この玩具をモデルに、金属3Dプリンターで造形した「一体型メタル・スフィアボール」が「名古屋ものづくりワールド2022」(2022年4月13~15日、ポートメッセ名古屋)に登場した。製作したのは、KOMINE工業(埼玉県久喜市)。鋳造用の中子やケレン(中子の保持材)といった鋳造関連副資材の製造・販売を手掛ける、従業員が40人の中小企業である。

アルミ合金でできた知育玩具「一体型メタル・スフィアボール」
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アルミ合金でできた知育玩具「一体型メタル・スフィアボール」
金属3Dプリンターで造形した。(写真:日経クロステック)

 リンク式のアームと、複数のアームと連結する機構を組み合わせて構成されており、伸縮性を持つ。機構には2種類ある。3本のアームと連なる3角形の機構(3角機構)と、4本のアームと連結する4角形の機構(4角機構)だ。両機構は合わせて50個ほどあり、アームを合わせた同ボールを構成する合計の部品点数は244である。アームをたたむと直径127mmと小さくなり、伸ばすと直径224mmと大きくなる。アルミニウム合金製だ。

 工作機械には、DMG森精機のパウダーベッド方式レーザー金属積層造形機を使用。造形材料にはアルミ合金粉「AlSi10Mg」を採用した。5000番系アルミ合金に近い特性を備えているという。

一体型メタル・スフィアボールの部品
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一体型メタル・スフィアボールの部品
リンク式のアームと、複数のアームと連結する機構がある。機構には、機構には3本のアームと連なる3角機構と、4本のアームと連結する4角機構がある。(写真:日経クロステック)

 加工時は、アームを伸ばし切って最大にした状態ではなく、アームを少し伸ばした形状のスフィアボールを造形していく。積層高さは50μmで、造形時間は約30時間だ。

サポート材は3000近く

 複雑な造形を可能にしたポイントは、サポート材の設計にある。244個ある部品(機構とアーム)を1つひとつ空中に浮かせるイメージで造形するため、サポート材の本数は3000近くに達する。すなわち、部品1個当たり平均で約12本のサポート材を設ける計算となる。

アームを縮めた最小の状態
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アームを縮めた最小の状態
左が今回の出展品。直径は127mm。右は従来の製作品で、2021年8月にDMG森精機が主催する切削加工コンテストで金賞を授賞したもの。(写真:日経クロステック)

 中でも難しかったのは、機構とアームの連結部だ。この部分は機構側に穴を設け、そこにアームの端に付いた突起が入ることで、可動を許しながらも外れないように保持する構造。この穴と突起の間の狭い隙間(空間)にもサポート材を造形しなければならなかった。KOMINE工業はノウハウとして詳細を明かさないが、こうしたサポート材の設け方に加えて、サポート材の除去にも工夫を凝らしているという。

 アーム同士を連結する、アームと心棒の隙間にも苦労した。スフィアボールが滑らかに伸縮するには隙間が小さい方が良いが、そうするとレーザー照射時に生じるメルトプール(溶融金属のたまり)により、アームと心棒がくっついてしまうという。そのため、メルトプールが発生しない熱量に抑えるべく、レーザーの出力を調整したという。

 驚くのは、KOMINE工業の金属3Dプリンターの習熟速度だ。