全1968文字
PR

 「アルミボディー」の検討が日本でも進んできた。アルミニウム合金の構造部品の砂型鋳造を手掛ける木村鋳造所(静岡県清水町)は、「昨年(2021年)から自動車メーカーから先行開発段階における試作の需要が増えてきた」と語る。同社は、低圧砂型鋳造技術を持つドイツGrunewald(グルネバルド)と技術提携。砂型鋳造で造った試作用の大物アルミボディー部品を「名古屋ものづくりワールド」(2022年4月13~15日、ポートメッセ名古屋)に出展した。来場者の注目を集めている。

アルミ合金でできた縦ビーム
[画像のクリックで拡大表示]
アルミ合金でできた縦ビーム
砂型鋳造で造った。Mercedes-Benz Groupが量産車に搭載した縦ビームの試作品。鋼製なら約30個の部品を組み立てて造るところを一体成形した。(写真:日経クロステック)

 出展した大物アルミボディー部品は2つある。1つは、車体後方の縦ビーム。ドイツMercedes-Benz Group〔メルセデス・ベンツグループ、旧Daimler(ダイムラー)〕の量産前の試作品だ。大きさは1400×450×320mmだが、質量は7kgと軽い。この軽さは、鋼に比べてアルミ合金の密度が小さいことに加えて、造形形状の自由度の高さによる。縦ビームの内側に深い(高い)リブを成形し、質量を軽減しながら強度・剛性を向上できる。加えて、最小の肉厚を2mmまで薄くできる。「ここまでの大物部品でありながら、2mmの薄肉成形ができる企業は少ない」(木村鋳造所)。

深いリブ
[画像のクリックで拡大表示]
深いリブ
砂型鋳造は造形形状の自由度が高いため、こうしたリブを設けて強度・剛性を向上できる。(写真:日経クロステック)

 もう1つは、サスペンションが付くショックタワーと呼ばれる大物アルミボディー部品。2021年に発売の新型「Cクラス」に搭載されたショックタワーの試作品である。大きさは350×300×200mm程度で、質量は約4kgである。最小の肉厚は同じく2mmとなっている。

 共に、材料には鋳造用として一般的なアルミ合金であるAC4Cを使った。アルミボディー部品は、量産にはアルミダイカストを使うが、試作には砂型鋳造を採用するケースが多い。砂型鋳造品で機械的特性などを確認し、設計上の問題がクリアになれば、アルミダイカスト用の金型の製作に移行する。木村鋳造所はこの試作段階のアルミボディー部品の砂型鋳造を手掛ける。

伸びと木型レスに差異

 木村鋳造所の特長は、まず3Dプリンターを使った砂型の直接造形「ダイレクトモールディングプロセス(DMP)」技術を持つことだ。3D-CADデータから鋳造CAE解析に基づいた砂型や中子を、3Dプリンターを使って直に造形できる。そのため「木型レス」、すなわち木型の製作工程を省ける。同社は、このDMP技術を踏まえた砂型積層造形専用の3Dプリンターを世界で10台(日本で6台、米国で3台、ドイツで1台)稼働させている。

砂型のサンプル
[画像のクリックで拡大表示]
砂型のサンプル
砂型積層造形専用の3Dプリンターで製作する。木型レスを実現し、その分、製作のリードタイム(納期)が速くなる。(写真:日経クロステック)

 もう1つの特徴は、熱処理に強いことだ。例えば、先の2つの大物ボディー部品に使用した熱処理「T6」では、溶体化〔500度(℃)程度で数時間保持〕と焼き入れ(急冷)、人工時効(200℃程度で保持)の3つの処理が必要となる。同社はこれらの各処理の時間と温度を厳密に管理し、10%を越える伸び(延性:変形のしやすさ)を実現した。伸びが2~3%と定められている日本産業規格(JIS)品よりも割れにくいため、ボディー設計の自由度が高まるという利点がある。