全2598文字
PR

 マグネシウム(Mg)ダイカストを使ったものづくりを手掛ける東海理化が、環境負荷軽減の技術を確立。ライフサイクルアセスメント(LCA)*1を踏まえた二酸化炭素(CO2)排出量の低減活動を展開している。その積極的な姿勢をトヨタ自動車も評価。優れた仕入れ先を表彰する「環境推進 優秀賞」を2022年3月に東海理化に贈った。この活動により、東海理化はMgダイカストのCO2排出量をアルミダイカストと同程度に抑えることを狙う。

Mgダイカストで造った自動車部品
Mgダイカストで造った自動車部品
東海理化は1980年代から手掛けている。(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

*1 LCA 環境負荷の定量的な評価方法。生産から廃棄までの二酸化炭素(CO2)排出量を評価する。

 Mg合金は、構造材として使える強度・剛性のある金属の中で最軽量。かつ質量当たりの強度(比強度)と剛性(比剛性)が高いため、肉厚が薄くても強度を保ち、曲げ剛性に優れる部品を造れるという特性を持つ。この利点を生かし、東海理化は1980年代からMgダイカストで自動車部品を造ってきた。最近は自動車分野以外の領域を開拓しつつあり、それらの新製品を「名古屋ものづくりワールド」(2022年4月13~15日、ポートメッセ名古屋)で披露した。

Mgダイカストで造った新たな製品
Mgダイカストで造った新たな製品
カラフルな靴べらを出展した。(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 特性に長(た)けるMgダイカストだが、カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)の観点では、CO2排出量が多いという課題がある。そこで、東海理化はCO2を削減する2つの技術を開発した。

地球温暖化係数が1/2万3900の防燃ガスを実用化

 1つは、防燃ガスの実用化だ。Mgダイカストは、670~690度(℃)の熱でインゴット(原料の塊)を溶かして得た溶湯を、るつぼ(容器)の中にためる。ここで溶湯の表面が空気(酸素)に触れると、花火のように激しく火花を発しながら燃える。いったん燃焼を始めると消火が難しく、溶湯がなくなるまで燃え続けるため、安全上の問題がある。そのため、るつぼに蓋をして封止し、内部を防燃ガスで埋めて酸素を遮断して、溶湯の表面の酸化(燃焼)を防ぐ必要がある。

防燃ガスの切り替え
防燃ガスの切り替え
GWPが約1と小さいFKガスを採用した。従来のSF6はGWPが2万3900と非常に大きかった。(出所:東海理化)
[画像のクリックで拡大表示]

 東海理化は、フッ化ケトン(FK)を主成分とする防燃ガス(以下、FKガス)を大陽日酸(東京・品川)と共同で開発した*2。FKガスを使うと、溶湯の表面にフッ化Mg(MgF2)が形成され、これが保護膜になって酸素を遮断して発火を防ぐ仕組みだ。

 FKガスに切り替えた理由は、地球温暖化係数(GWP:Global Warming Potential)を下げるためである。というのも、従来の防燃ガスのGWPが大き過ぎたからだ。

*2 使用時には、FKガスを窒素(N2)もしくはCO2で希釈する。

 通常、Mgダイカストでは六フッ化硫黄(SF6)を使う*3。防燃性能が高い上に安価だからだ。ところが、GWPは2万3900もある。すなわち、CO2の2万3900倍の温暖化能力を持つということだ。このSF6を使うことによる環境負荷は非常に大きく、実に東海理化の全CO2排出量の4割を占める計算となっていた。

*3 使用時には、SF6を窒素(N2)またはドライエアーで希釈する。

 これに対し、FKガスのGWPは約1。すなわち、CO2と同水準だ。そのため、FKガスに切り替えたことにより、SF6に比べて大幅にGWPを下げることができた。

 ただし、FKガスを実用化する上では大きな課題があった。価格がSF6の10倍も高いことだ。この問題を解決するために、東海理化はトヨタ生産方式の考え方を導入した。FKガスを「必要な時に、必要な量だけ使う」方法だ。例えば、インゴットをるつぼに供給する時に、インゴットが溶湯に投入されて溶解する箇所に集中してFKガスを吹き込む。すなわち、常時FKガスを流すのではなく、発火する可能性がある時と場所を狙い撃ちすることでFKガスの使用量を抑える発想だ。

 FKガスの実用化は日本工場が先行しており、一部の海外工場ではまだSF6を使っているところもあるという。同社は2025年までに海外を含めた全工場でFKガスに切り替える計画だ。