理化学研究所が2023年3月中に、超電導方式の量子コンピューターを稼働させ、テストベッドとして外部に公開する。そのハードウエアの詳細は、日経クロステックがこれまで詳しく報じてきた。
今回、理研が公開するのは64量子ビットを搭載する量子コンピューターだ。超電導方式の量子ビットは、周波数が数ギガヘルツのマイクロ波を照射すると「量子重ね合わせ」が発生したり、他の量子ビットとの間で「量子もつれ」が発生したりする。これを演算に使用する。
ただし現状は量子ビットの誤り訂正ができないほか、量子ビットの数も少ないため、有用な量子アプリケーションを実行できない。
超電導方式の量子コンピューターは量子ビット以外にも様々なデバイスで構成する。量子ビットに照射するマイクロ波をコントロールする制御装置や、量子ビットの信号を増幅する低雑音アンプ、低雑音電源、各種のケーブルやコネクターなどだ。
部品 | 部品の役割 | 日本の企業や研究機関 | 海外競合 |
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超電導量子ビットチップ | 演算素子である超電導量子ビットを搭載 | 理化学研究所、富士通 | 米IBM、米Google、中国アリババ集団など |
制御装置 | 量子ビットの制御や読み出しなど | 大阪大学、キュエル | 米Keysight Technologiesなど |
低雑音アンプ | 量子ビットの信号を低ノイズで増幅 | 日本通信機 | スウェーデンLow Noise Factory など |
低雑音電源 | ノイズの発生を抑えながらアンプなどの部品に電源を供給 | エヌエフ回路設計ブロック | |
配線ケーブル | マイクロ波信号を伝送 | コアックス | |
配線コネクター | 各部品や温度帯をまたぐ配線などを接続 | 日本航空電子工業、川島製作所 | |
希釈冷凍機 | 量子ビットが動作する極低温環境をつくり出す | アルバック・クライオ | フィンランドBluefors、英Oxford Instrumentsなど |
超電導量子コンピューターは各部品に対して、極低温での動作やノイズ耐性など、特殊で高い性能をさまざま要求する。
例えば量子ビットの極めて微弱なマイクロ波信号を、ノイズを抑えつつ増幅する高性能なアンプやそれらの電源。これらは、これまで宇宙や天体、医療といった最先端機器向けの部品で強みを発揮してきた日本企業が開発を進めている。
マイクロ波信号を部品や機器に伝えるケーブル、それらをつなぐコネクターについては、職人技やノウハウを持った日本企業が素材や加工方法に試行錯誤を重ねている。
一方で、超電導方式の量子コンピューターそのものの開発は、米Google(グーグル)や米IBMなどの海外勢が先行している。
グーグルは2023年2月、量子コンピューターの実用化に欠かせない「量子誤り訂正」が可能であることを初めて示したと発表した。同社は今後10年以内に、量子誤り訂正が可能で物理量子ビットを100万個搭載した実用的な量子コンピューターを実現することを目指している。
IBMは2022年11月に、量子ビットを433個搭載する量子プロセッサー「Osprey」を発表した。2023年に発表する予定の次期量子プロセッサーの「Heron」では、量子ビット間の結合を調整可能な「カプラー」を新たに導入する計画であり、Heronは量子ビットのエラー率などをOspreyに比べて低減できる見通しだとする。
先行する海外勢を追って、日本勢の量子コンピューターも実機の稼働がいよいよ始まるわけだ。