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 インターネット上で名誉毀損や著作権・プライバシーの侵害などが起きた際、侵害情報を媒介したプロバイダーなどの事業者の責任を制限し、被害者側が発信者情報の開示を請求する権利について定めた法律。「プロ責法」などと略される。

 正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」。2001年11月の成立、2002年5月の施行後は実質的な改正がなかったが、2021年4月21日に参議院本会議で改正法が可決・成立した。2022年末までに施行する見通しだ。氏名や住所といった開示対象となる発信者情報は今後、総務省令の改正で定める。

 改正法では権利を侵害された被害者側が発信者をより迅速に特定できるよう、新たな非訴訟の裁判手続きを創設した。被害者はSNS(交流サイト)事業者などのコンテンツプロバイダー(CP)とインターネット接続のサービス提供者や携帯キャリアなどのアクセスプロバイダー(AP)の双方に対し、1回の手続きで発信者情報の開示を請求できる。

 現行法ではまず権利侵害の対象となる投稿時のIPアドレスやタイムスタンプの開示をCPに求める仮処分の申立をし、認められれば発信者の氏名や住所などの開示をAPに求める訴訟を起こす2段階の手順が必要となる。CPによっては投稿時のIPアドレスやタイムスタンプを持っていないケースもあるため、改正法ではCPのサービスへのログイン時の情報も開示対象となる見通しだ。

 改正の背景にはインターネットを利用したサービスや利用者の増加で、ネット上での権利侵害が増えていることがある。

ネット上の権利侵害増加が背景

 著作権侵害では2017~18年ごろ、人気漫画を無断掲載する海賊版サイトや、海賊版コンテンツへのリンクを集めたリーチサイトが社会問題となった。プロ責法では迅速で効果的な海賊版対策が難しいとして、一時はそうしたサイトへのアクセスを遮断するブロッキングが検討されていた。さらに2020年5月には人気リアリティー番組に出演していた女性がSNS上での誹謗中傷を苦に自殺を図ったとされる事件が起こり、プロ責法の改正に向けた議論に注目が集まった。

 これまで発信者特定にはCPとAPが国内事業者の場合で1年弱、CPが米ツイッターなどの海外事業者の場合はさらに数カ月~半年かかるのが一般的だった。総務省の「発信者情報開示の在り方に関する研究会」の構成員を務めた虎ノ門南法律事務所の上沼紫野弁護士は、改正を「手続きの簡素化と期間短縮のための大きな改正だ」と評価する。細かい手続きは今後、最高裁判所が規則で定める。

 一方で「CPがAP情報の提供命令にきちんと協力してくれるかが最大の懸念」(上沼弁護士)だ。表現の自由は日本国憲法21条に定められた重要な権利だが、他者の権利や尊厳を傷つけるような表現まで無制限に認められるわけではない。新制度が力を発揮するには、人権や著作権といった権利の侵害を許さない世論の後押しも重要になる。