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暗記・テストと一線、「~してはいけない」も無し

 内閣府の総合科学技術・イノベーション会議が2022年6月2日に発表した「Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」はさらに踏み込んで、デジタル社会では子供たちにデジタルシティズンシップが備わっていることが大前提であり、その育成が喫緊の課題だと指摘する。

 デジタルシティズンシップに基づく教育では、児童・生徒は与えられたデバイスを使い、自分が学びたいことを学べる。児童・生徒が自分自身で考え、デジタルリテラシーを自発的に習得し、問題解決していく力を養うことが重視される。単にデジタル機器やインターネットなどの使い方を児童・生徒に教えるものではなく、また教師が授業で話した内容をメモしたり、暗記した知識をテストで書き出したりといった勉強の仕方でもない点が従来と異なる。

 小学校では2020年度、中学校では2021年度から順次実施されている現行の学習指導要領には「個別最適な学び」との方針が盛り込まれており、これが「デジタルシティズンシップの考え方に当てはまる」と豊福准教授は言う。「半年などの長期間をかけて勉強し、学びの成果をスライドショーにまとめて他者に発表するというような学習の方法に変わりつつある」(豊福准教授)。

 デジタルシティズンシップを先駆的に実践している兵庫県姫路市立の小中一貫校、豊富小中学校では「情報を『つくる』と『つかう』を考える~デジタルシティズンシップを意識しながら~」という取り組みを実施。小学校低学年では1人1台与えられた端末をどう大切に使うかやID・パスワードの重要性などを考え、情報社会の一員としての態度を養う。

 この際、教師は児童に「~してはいけない」とは教えず、問題や課題に「どのように対応すればよいか」を児童が自ら考えるようにする。高学年ではインターネット上にあふれる多くの情報の中から、一人ひとりが自分に必要な情報を自ら選び整理する。写真や動画を撮影する時は声をかけるなど、情報を集めたり利用したりする場合に他者に対してどう接するか、自ら考えて行動する態度を養う。

 半面、デジタルシティズンシップの考え方を学校教育の現場へ広く浸透させるには課題もある。まずは教材や授業時間の不足だ。教材は経済産業省の「STEAM Library」で公開されているものがある程度で、教育課程や児童・生徒の好奇心の幅広さに対して追いついておらず「いかに拡充するかが課題だ」(豊福准教授)という。さらに、教員や保護者を含めた大人がデジタルシティズンシップを身につけられていないという課題もある。

 豊福准教授はデジタルシティズンシップについて「勉強というより、デジタルの世界を生きていく上で必要なスキルだ」と語り、青少年向けの学校教育に限定されるものではないと指摘する。

 豊福准教授が例示するのは、大人であっても動画配信サービスで映画などを際限なく長時間視聴してしまう、インターネット上で誹謗(ひぼう)中傷をしてしまう、フェイクニュースの判別ができずに拡散してしまう、といった行為だ。1日にどのくらいの時間をインターネットに使うことが適切かや、どのような使い方が適切かを自ら判断できていない。これらの一因として、大人におけるデジタルシティズンシップの欠如が挙げられると豊福准教授は指摘する。