自動車のミラーが変貌を遂げようとしている。カメラとディスプレーを用いて周囲の状況を確認する「電子ミラー」がついに実用化したためだ。従来の光学ミラー(後写鏡)に比べて死角が減り、夜間などの視認性の向上が期待できる。将来的には、自動運転車のセンサーの役割も担いそうだ。
実用化で先陣を切ったのがトヨタ自動車である。2018年10月に発売した「レクサスES」に、世界で初めて量産車に電子ミラーを採用した(図1)。欧州勢も続く。ドイツ・アウディ(Audi)は電気自動車(EV)「e-tron」に、同ダイムラー(Daimler)は大型トラック「Actros」にそれぞれ電子ミラーを搭載することを決めた。
日欧で解禁、米中も議論が活発化
量産が一気に始まったきっかけは、2016年にあった規則改定だ。国際連合欧州経済委員会(UN/ECE)が定める、後写鏡に関する規則「Regulation No.46」(以下、R46)の改訂作業が同年6月に完了。UN/ECEと歩調を合わせる日本も、直後に道路運送車両の保安基準を改正した。
今のところ電子ミラーを搭載した車両を公道で走らせていいのは日本と欧州だけだが、米国や中国でも規則改定に向けた議論が活発化し始めた。米中で解禁となれば、いよいよ電子ミラーが世界市場に浸透する土台が整う。
電子ミラーは、ルームミラーとドアミラーに分けられる。R46では、乗用車を対象に、それぞれ「Class I」「Class III」と呼ぶ。レクサスESが先陣を切ったのが、ドアミラー(Class III)の電子化である。
電子ミラーは一般に、(1)死角の低減、(2)夜間や雨天時などの視認性向上、(3)空気抵抗の低減、(4)車両デザインの自由度向上といった利点が挙げられる(図2)。