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 スマートフォン(スマホ)やタブレット端末のソフトウエアを活用して疾患の予防や管理、治療を行うシステムのこと。日本では、治療用アプリと呼ばれることがある(関連記事:アプリで「治療」)。英語では、Digital Therapeuticsと記され、DTxと略す。臨床試験を行い、効果を示す必要がある。各国の規制当局から承認されたものを指す。米国では2017年に、DTxの業界団体である「Digital Therapeutics Alliance」が発足した。同団体によると、DTxには健康増進アプリやウェルネスアプリ、服薬状況を管理するアプリなどは含まれない。日本では、DTxをプログラム医療機器として規制当局に承認申請することになる。

 DTxは、治療の選択肢を広げると期待されている。疾患で生じる症状には、(1)機能の低下など身体的な原因で起きるものと、(2)考え方の癖など心理的な原因で起きるものがある。医師は一般的に、(1)の身体的な原因で起きる症状に対しては、医薬品や医療機器を利用して治療している。一方で(2)の心理的な症状に対しては、患者と対話したり指導したりしている。

 ただ、(1)では中枢神経系の疾患などのように医薬品や医療機器では治療しにくいものがある。また(2)では、医師が1人の患者に対して十分な時間を取って指導しにくいのが現状だ。

 DTxは、(1)の身体的な原因で起きる症状に対しては例えば、ソフトウエアの課題を実行することで、脳機能の改善などを目指す。(2)の心理的な症状に対しては、患者が来院していないときでも、ソフトウエアを通じて指導を行うなどして、行動変容を促し効果を発揮する。

(写真提供:Akili Interactive Labs社)
(写真提供:Akili Interactive Labs社)

 米国では、2型糖尿病の患者向けを皮切りに、喘息(ぜんそく)患者、コカインや覚醒剤などの依存症の患者向けのDTxの実用化が進む。2019年7月8日時点では日本で実用化されているDTxは無いが、ベンチャー企業のキュア・アップが、ニコチン依存症患者向けのDTxの承認申請を行っている。他にも、サスメドが不眠症向けのDTxを開発しており、日本で臨床試験を行っている段階だ。

 最近では、ベンチャー企業だけではなく製薬企業がDTxの開発に積極的に乗り出している。精神や中枢神経系などのように、医薬品だけでは治しにくい疾患が存在するためだ。医薬品とDTxを併用することで治療の効果を高める狙いがある。2018年3月には、大手製薬企業のスイス・ノバルティス(Novartis)が、DTxの開発を進める米Pear Therapeuticsとの提携を発表した。精神疾患である統合失調症と中枢神経系に病変が生じる多発性硬化症のDTxに関して共同開発を行う。

 DTxに注目するのは、欧米の製薬企業だけではない。2019年に入り、DTxを開発するベンチャー企業と共同開発契約を締結する日本の製薬企業が出てきた。精神や中枢神経系の疾患の医薬品を手掛ける大塚製薬と塩野義製薬だ。両社はそれぞれ、自社の開発経験や営業体制を生かしてDTxの開発に参入する。

 欧米だけではなく日本で盛り上がりを見せつつあるDTxの開発だが、日本での実用化にはいくつかハードルがある。その1つが保険適用だ。医薬品や医療機器は、承認が得られれば全て保険適用されるわけではない。DTxは新しい製品のため、保険点数のつけ方に前例が無い。点数がつくのか、つくとしたらどれくらいつくのかが見通せない状況となっている。