トヨタ自動車で移動サービス事業を統括する副社長の友山茂樹氏は、米グーグル(Google)系企業が自動運転車の配車事業をいち早く商用化したことに対して、「100台規模と1万台規模で走らせることは、全く道筋が異なる」とけん制した。小さく始めて一気に規模を拡大するIT業界の勝利の方程式は、自動車という“リアルの世界”では通用しないとくぎを刺す。
グーグル親会社である米アルファベット(Alphabet)傘下の米ウェイモ(Waymo)は2018年12月、自動運転車の配車事業を米国アリゾナ州のフェニックス市で始めた。自動運転ソフトウエアの開発にいち早く着手してきたことで、追従する競合他社に先んじた格好である(図1)。
先行者利益を最大にするため、事業地域を早く増やし、競合の参入前に利用者数を一気に増やしたい局面である。それにもかかわらず、事業規模の拡大がすんなり進まないとトヨタが見透かすのは、ウェイモには自動運転車の生産工場と、大量の車両を整備する販売店がないからだ。
ウェイモがフェニックス市で始めた配車事業は、利用者を100人程度に限定するとされる。実質的に、実証実験の延長にとどまる。
トヨタの友山氏は、「数万台規模で自動運転車を生産し、必要な時期に整備するには、生産工場と(整備士を抱える)販売店のノウハウを多く有することが重要になる」と、トヨタの優位性を主張した。トヨタは自動運転車の開発で遅れるが、ウェイモが事業拡大にもたつく間に追い付く算段である。
ウェイモは弱点解消に着手するが、時間がかかりそうだ。2019年1月、米国ミシガン州に自動運転車の改造工場を設立すると発表した。部品大手のカナダのマグナ・インターナショナル(Magna International)が協力する。
ウェイモは2018年、欧米フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)から6万台超、英ジャガー・ランドローバー(Jaguar Land Rover)から最大2万台の車両の供給を受けると発表している。合計で8万台に上る車両を、ミシガン州の改造工場で自動運転車に作り変える。
肝心の改造工場の設立時期は不明だが、「数年間で数百人の雇用を創出する」と明かす。フル稼働できるのは2020年以降になる公算だ。トヨタは、ミニバン「シエナ」を改造したサービス用自動運転車を2021年に米国で投入する。ウェイモとの本格決戦に間に合いそうだ。
ウェイモに対抗意識、孫社長
トヨタは、事業規模の拡大速度でウェイモに勝る体制を構築し始めた。友山氏がとりわけ重んじるのが、「あらゆる配車事業者とオープンに提携できる環境を作ること」である(図2)。ウェイモの主要な競合企業の全てと手を組む勢いで臨む。