ドイツ・ポルシェ(Porsche)は、新型スポーツカー「911カレラS」に、改良した排気量3.0Lの水平対向6気筒ガソリンエンジンを搭載する(図1)。厳しくなる排ガス規制の下で、スポーツカーの生き残る道を模索するポルシェの苦悩が透けて見えた。
新型911カレラSは992型と呼ばれ、8代目。エンジンは先代車両(991型)の9A2型を改良したもので、9A2evo型と名付けた(図2)。
改良エンジンの開発で、ポルシェがとりわけ力を注いだのが排ガス性能を高めることである。一方でドイツ・ニュルブルクリンク(北コース)のラップタイムは7分25秒と先代の記録を5秒更新し、スポーツカーとしての矜持(きょうじ)を保つ。
2019年5月にオーストリアで開催されたパワートレーンの国際会議「第40回ウィーン・モーター・シンポジウム(40th International Vienna Motor Symposium)」で、ポルシェは改良エンジンについて発表した。エンジン開発責任者のThomas Wasserbach氏は、開発で重んじた点で最初に動力性能を挙げた後、エンジン効率と排ガス性能と続けた。
動力性能はスポーツカーのエンジンでは基本指標といえて、ポルシェは最高出力を前型比22kW(30PS)増の331kW(450PS)、最大トルクを同30N・m増の530N・mに高めた。動力性能を上げ続けるスポーツカーの“作法”は堅持する。
一方で、苦心していたと映るのが、動力性能を高めるほどに難しくなる環境規制への対応である。2つはなかなか両立しない。中でも欧州の最新の排ガス規制「Euro 6d-Temp」に対応するため、ポルシェは通常のガソリン機ではあり得ない技術を投入した。
ピエゾ式の燃料噴射装置を採用したことである(図3)。ポルシェのエンジンでは初めてだ。先代は一般的な電磁ソレノイド式だった。ピエゾ式はディーゼル機で一般的だが、コストが電磁式の数倍は高くなる。ガソリン機には“過剰”な技術とされており、普通は使わない。ポルシェの苦悩を象徴する。
ポルシェが異例のピエゾ式の採用に至る背景にあるのが、Euro 6d-Tempが始まって、排出ガス中の粒子状物質数(PN:Particle Number)の規制が厳しくなったことである。
高価だが応答性を高めて噴射間隔を短くできるピエゾ式を採用することで、ポルシェは動力性能や燃費性能を犠牲にすることなく、PNを大きく減らしたかった。
実のところポルシェは、PN規制への対応に新しくGPF(ガソリン微粒子フィルター)を採用している(図4)。排ガス中の粒子状物質をフィルターで捕集するもので、最近の直噴ガソリン機で採用が広がっている。
GPFがあれば、それだけで十分にPN規制に対応できそうに思える。それにもかかわらずポルシェがGPFに加えてピエゾ噴射まで採用するのは、高い動力性能を追求するスポーツカーは、一般的な乗用車に比べてPNが大きくなりがちで、排ガス規制への対応がかなり難しくなっていることを意味する。