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 ヤマハ発動機は2019年8月、同社初となる電池交換式の電気自動車(EV)スクーターを台湾で発売した(図1)。名称は「EC-05」。電池交換式EVスクーターで先行する台湾ベンチャーのゴゴロ(Gogoro)と組み、Gogoroの二輪車をベースに、ヤマハ発が外装デザインを変えた。

図1 ヤマハ発動機は電池交換式EVスクーターに参入する
図1 ヤマハ発動機は電池交換式EVスクーターに参入する
(a)名称は「EC-05」。2019年8月に台湾で発売した。座席下に電池パックを2個搭載し、航続距離は100~150kmを想定する。(b)台湾ベンチャーのGogoroが手掛ける「S2」シリーズをベースとしたOEM供給となる。ヤマハ発が外装の車両デザインを担当した。(a)の出所はヤマハ発動機、(b)の撮影は日経 xTECH。
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 Gogoroからヤマハ発にOEM(相手先ブランドによる生産)供給する形となり、今回は台湾市場に限定しての車両投入とする。

 EVへの補助金を考慮しない車両価格は9万9800台湾ドル(1ドル=3.5円換算で約35万円)に設定し、年間2万台という販売目標を掲げる。

 ベースとしたのは、Gogoroが手掛ける排気量125ccクラスのEVスクーター「S2」シリーズだ。同じ車両を使ってのOEM供給のため、ヤマハ発のEC-05とGogoroのS2の性能はほぼ同じ注)

注)EC-05の最高出力は約7.5kWで、最大トルクは約26N・m。最高速度は90km/hである。加速性能を強みとしており、停止状態から50km/hまでの加速時間は3.9秒と、一般的な同クラスのガソリンスクーターに比べて0.8秒速いという。車両質量は電池パックを含んで約126kgだ。車両寸法は全長1880×全幅670×全高1180mmで、ホイールベースは1300mmである。乗車定員は2人としている。ヤマハ発が手掛けるEVスクーターとしては5車種目となる。

 価格競争力では供給元であるGogoroのS2に軍配が上がり、ヤマハ発のEC-05に比べて1割以上安く販売しているようだ。そのため、台湾という限定的な市場でヤマハ発がGogoroに打ち勝つことは難しい。

 ヤマハ発が不利な立場でも電池交換式EVスクーターを手掛けたかったのは、利用者にとって大きく3つの利点が存在するからだ。(1)車両の非稼働時間を短縮して連続で使いやすいこと、(2)技術の進歩に合わせて電池を改良して載せ替えやすいこと、(3)1個の電池を多用途に使い回せるため、車両の価格を下げやすいこと─である。

 EVスクーターの利便性を向上できる電池交換式の仕組みに目を付け、ヤマハ発は2018年9月にGogoroと「台湾市場におけるEVビジネスの協業に向けた検討」を開始。OEM供給という形ではあるが、電池交換式EVスクーターを手掛けるに至った。

 ヤマハ発はEC-05を「今後継続的に市場投入していく電動製品戦略に沿った最初の製品」と位置付けており、車両データや交換ステーションの利用データを収集する試作モデルとしての意味合いが強い。

 Gogoroが台湾で展開する電池交換式の仕組みは、着脱式の電池パックを交換ステーションに挿入して充電し、複数の電池パックを多数の利用者で使い回すというもの(図2)。

図2 台湾に約1300カ所あるGogoroの交換ステーションを使う
図2 台湾に約1300カ所あるGogoroの交換ステーションを使う
電池パックは6秒以内で交換可能とし、利便性の高さを訴求する。パナソニック製の円筒型リチウムイオン電池セルで構成。パックの質量は約9kgだ。(撮影:日経 xTECH)
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 同社は交換ステーションを2019年7月時点で、ガソリンスタンドやコンビニエンスストアの敷地内など、台湾全土の約1300カ所に整備している。利用時の料金体系は月額定額制が基本だ。

 Gogoroは2017年ごろから、日本の沖縄県石垣市(石垣島)や、フランス・パリ、ドイツ・ベルリンといった地域でも実証実験を進め、台湾以外の地域での本格的な展開が現実味を帯び始めている。