東京工業大学と慶応義塾大学の研究グループは、自動車エンジン内の水噴射技術に新しい現象を発見した。水蒸気の膜と呼べる層を気筒内につくることで、遮熱効果を得られる。高温の燃焼ガスからピストン上面に熱が伝わる損失を抑えて、熱効率を高められる(図1)。
水噴射はかねて、水で気筒内を冷やして空気を多く入れる「出力向上技術」(国内自動車メーカー幹部)と見られており、採用が広がらなかった。例えばドイツBMWが高級スポーツ車の一部で採用するのにとどまる(図2)。
世界で厳しい環境規制が広がる中、各社が優先するのはCO2排出量の削減技術である。出力重視の技術は後回しにされがちだった。水噴射で遮熱する新現象によって熱効率向上に寄与するとなれば、出力と環境の両立技術として採用が広がる可能性がある。
東工大教授の小酒英範氏と慶大教授の飯田訓正氏、同准教授の横森剛氏らの研究グループが、水噴射による遮熱効果を「成層水蒸気遮熱燃焼(Stratified Water Insulated Combustion Architecture:SWICA)」と名付けた。「現象を可視化したところ、気筒内で水蒸気の成層化が生じている可能性がある。今後、実験でも確かめる」(小酒氏)。
2019年3月に終了した国家プロジェクト「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)革新的燃焼技術」の一環である。SIPでは、ガソリンエンジンの熱効率として研究段階で世界最高となる50%超に達した。SWICAは、「50%達成の中核技術の1つ」(飯田氏)である。
SIPの成果発表時点で特許を出願しておらず、内容をほとんど公表していなかった。このほど、日経 xTECHに技術の一部を明かした。