スズキとトヨタ自動車は2019年8月28日、資本提携すると発表した。スズキがトヨタに480億円(同社株の約0.2%相当)、トヨタがスズキに960億円(同約5%相当)を出資する。スズキにとっては悲願で、販売が落ち込む現状では“救いの手”と言えそうだ。
2社は2016年に業務提携を発表した(図1)。スズキの強いインド市場で、トヨタに車両を供給するなど関係を深めてきた(図2)。今回の資本提携によって互いの関係を深めて、協業領域を拡大していく。世界販売が約330万台で10位以内にも入れないスズキは、大手にとって格好の再編対象。資本提携でトヨタの後ろ盾を得られる利点は大きい。
スズキは今、苦境に陥っている。2019年度の世界販売目標は334万台だが、「下方修正を迫られている」(自動車アナリスト)との見方がもっぱらだ。300万台程度まで落ち込むとの厳しい見通しも飛び出す注1)。
注1)原因は、主力のインド市場が落ち込んでいることだ。スズキのインド販売は、2019年度第1四半期に前年同期比2割減の約37万台と壊滅的だった。インドでは、2019年4~5月に行われた総選挙(下院選挙)の前に買い控えが起こった。「新政権の発足後も需要の反転は見られない。明るい材料はまだ見えない」(スズキ常務役員の長尾正彦氏)。
今後の見通しも暗い。2020年4月、インドは新しい排ガス規制「BS6」を導入する。排ガス対策でコストが増えて、車両価格が上がる。販売はさらに落ち込むかもしれない。インドで販売台数が多いディーゼル車の場合、数十万円相当と大幅に価格が上がる可能性がある。
先行きが暗い今の時期にトヨタが資本提携に応じて公表できたのは、スズキにとって“福音”である。仮に販売台数の“大幅下方修正”に踏み切らざるを得なくなり株価が大きく下がれば、スズキに触手を伸ばすメーカーが登場するかもしれない注2)。
注2)トヨタにとっては出資関係ができたことで、スズキに技術を供与しやすくなる。トヨタの目下の課題の1つが、電動化技術を拡大することだ。トヨタは550万台の電動車両を販売する目標の達成時期を5年前倒して2025年にした。その実現にスズキを活用したい。
焦点はインドネシアだろう。電動車両を普及する政策を推進し始めた。トヨタグループはインドネシアで、スズキに電気自動車を供給する可能性がある。
とはいえ、今回の資本提携によって得られる果実はトヨタよりスズキが大きそう。スズキはトヨタに「借り」をつくった形に映る。この「借り」を早いうちに返せなければ、スズキの望む“対等”な関係がどんどん崩れるだろう。
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