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 トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(TRI-AD)と英アーム(Arm)は、自動運転技術のコンソーシアム「AVCC(Autonomous Vehicle Computing Consortium)」の狙いについて、2019年12月に開催したアーム主催のイベント「Arm Tech Symposia 2019」で説明した。

 AVCCは自動運転車向けの車載コンピューターの推奨要件を定義するオープンなコンソーシアムだ。参画企業はアーム、ドイツ・ボッシュ(Bosch)、同コンチネンタル(Continental)、デンソー、米ゼネラル・モーターズ(GM)、米エヌビディア(NVIDIA)、オランダNXPセミコンダクターズ(NXP Semiconductors)、ルネサスエレクトロニクス、トヨタ自動車、スウェーデン・ヴィオニア(Veoneer)の10社である。2019年10月の発表時に比べて、「ルネサスとヴィオニアの2社が新たに加わった」(TRI-ADバイス・プレジデントの谷口覚氏)という(図1注)

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図1 AVCCの狙いについて説明
(a)TRI-ADバイス・プレジデントの谷口覚氏、(b)アームDirectorの新井相俊氏。(撮影:日経Automotive)
注)2020年1月に米シノプシス(Synopsys)が加わり、現在は11社となった。

 ドイツの自動車メーカーや米インテル(Intel)/イスラエル・モービルアイ(Mobileye)などが加わっていないが、「関連する企業には幅広く接触しており、特定の企業を排除するものではない」(アームDirectorの新井相俊氏)という。なお、AVCCの初代チェアマンにはGMの担当者が就任している。

 AVCCは自動運転技術の非競争領域に焦点を当てたコンソーシアムであり、通常は競合関係にある企業が互いに協力し合う。現在も参加企業を募集中だが、「参加する場合には“技術的な貢献"が必要になる」(新井氏)という。情報収集のための参加などは基本的に認められないようだ。すべてのワーキンググループに技術者を派遣し、貢献することが求められる。競合関係を超えて優秀な技術者が集結するため、「自動運転技術の課題解決に非常に有効」(TRI-ADの谷口氏)とする。

車載コンピューターは30Wが限界

 自動運転システムの最大の課題は、コストが高いことである。「地域によって変わる法規や、多様なモビリティーが混在する交通環境、時間や天候によって変化する道路状況などにすべて対応するためには、複雑なソフトウエアが必要になる」(谷口氏)。

 それを処理する車載コンピューターや半導体チップには高い性能が求められる。しかし、性能と同時に消費電力も増えてしまうと、放熱/冷却システムのコストがかさむ。「安価な空冷システムだけで間に合わせるためには、車載コンピューターの消費電力は30Wが限界」(同氏)とする(図2)。

図2 空冷では30Wが限界
図2 空冷では30Wが限界
安価な空冷システムで済ませるためには、車載コンピューターの消費電力を30W以下に抑える必要がある。(出所:TRI-AD)
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 性能が高く、消費電力の低い車載コンピューターの実現には、優れたプロセッサーやSoC(System on Chip)の開発が欠かせない。しかし、半導体メーカーがバラバラに開発を進めると、効率が悪くコストが高くなってしまう。そこでAVCCでは、自動運転車向けの現実的な車載コンピューターの要件を定義し、ムダを省く。

 具体的には、「プロセッサーやアクセラレーター、アプリケーションスペシフィックエンジンといったハードウエア構成や、ソフトウエアのAPI(Application Programming Interface)を定義する」(同氏)。その際に「部品レベルではなく、システムレベルで議論することが重要」(同氏)となるため、半導体メーカーだけでなく、メガサプライヤー(ティア1)や自動車メーカーが参画している。

非競争領域はどこか

 トヨタは自動運転の開発について、2つのアプローチを採っている(図3)。1つは自家用車向けに自動運転のレベルを段階的に引き上げていくアプローチ、もう1つはMaaS(Mobility as a Service)車両向けに特定の条件下で一気に完全無人化を図るアプローチである。AVCCでは、「この両方を対象としている」(アームの新井氏)。

図3 自動運転の開発アプローチは2つ
図3 自動運転の開発アプローチは2つ
乗用車は自動運転のレベルを段階的に上げていくのに対し、MaaS車両は一気にレベル4を目指す。AVCCはその両方に対応する。(出所:TRI-AD)
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 また、トヨタに限らず、多くの自動車メーカーはすでにACC(アダプティブクルーズコントロール)や自動駐車といった設計資産を保有しており、これらを次世代の自動運転システムに統合していく方向である。このため、AVCCで議論する車載コンピューターには、「過去の設計資産を生かせるポータビリティーやインターオペラビリティー、スケーラビリティー、フレキシビリティーが重要」(TRI-ADの谷口氏)とする。

 自動運転ではディープラーニング(深層学習)を活用したAI開発を行うが、ここで重要なのが「アルゴリズム、データ、開発ツール、ハードウエア(半導体チップ)の4つ」(谷口氏)だという。このうち、自動車メーカーにとっての競争領域は、「認識や学習などのアルゴリズム、そのためのデータ、学習を効率的に行うための一部の開発ツール」(同氏)とする。

 一方、「SoCやGPU、FPGAなどのハードウエアや、ソフトウエア実装のための各種ツールなどは非競争領域」(同氏)とする(図4)。「現状では、こうした非競争領域の開発規模が非常に大きく、コストが掛かっている。そこを半導体メーカーや部品メーカーが個別に開発するのは非効率であり、AVCCを通じてその部分を共通化すれば、業界全体でコストを下げられる」(同氏)という。

図4 自動運転開発の非競争領域
図4 自動運転開発の非競争領域
赤い点線で囲んだ部分、ハードウエアや一部の開発ツールが非競争領域になる。(出所:TRI-AD)
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 AVCCでは非競争領域を対象としたワーキンググループを作り、そこで技術を共通化して個別に開発しないことでムダを省く。すでにワーキンググループをいくつか作り、その中でハードウエアやAPI、アーキテクチャーなどを具体的に議論しているという。ただ、今回は具体的な中身については触れなかった。

 コンソーシアムでは、車載コンピューターに求められる性能などの推奨機能要件を定める。「具体的な実現手段(SoCやGPU、FPGA)は規定しない」(アームの新井氏)。2025年に発売する量産車に間に合うように開発を進める。

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