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 小型ハイブリッド車(HEV)で真っ向勝負するホンダ「フィット」とトヨタ自動車「ヤリス」(図1)。発売1カ月のHEVの受注台数で、フィットに軍配が上がった注1)。ホンダはフィットのHEV開発で燃費性能を先代水準で十分と割り切り、ほぼ据え置く思い切った方針で臨んだのが、ひとまず奏功した格好だ。HEVの燃費を競う時代は終わるのか。

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図1 小型HEV同士が真っ向勝負
2020年2月にほぼ同時発売した。(a)フィット、(b)ヤリス。(撮影:日経クロステック)
注1)ホンダが2020年3月16日に発表したフィットの受注台数は3万1000台で、そのうちHEVが72%の大半を占めて約2万2000台に達した。一方でトヨタが同月10日に発表したヤリスの受注台数は3万7000台とフィットを上回るが、過半がガソリン車でHEVは約1万7000台にとどまった。HEVだけを見ると、フィットがヤリスを大幅に上回った形である。

 ホンダは新型フィットの開発で、燃費性能を付加価値につながらない「当たり前性能」と位置づけた。先代水準で実用上は十分で、これ以上高めても消費者の購買意欲を喚起しないと見切りをつけた。

 これまで、HEVの競争力の源泉は燃費だった。多数を占めるエンジン車と比べたときに、優位性を示しやすいからだ。ただ国内でHEV販売が2割超に増える中、HEV同士で競うことが多くなる。ホンダは燃費以外に力を注ぐ方がHEVの競争で優位に立てると発想を切り替えた注2)

注2)新型フィットの燃費はWLTCモードで29.4km/L(JC08モードで38.6km/L)と、ヤリスの36.0km/L(WLTCモード)に対して2割超の大差をつけられた。フィットの燃費性能は先代(JC08モードで37.2km/L)からわずか4%高めるのにとどめた一方、ヤリスは同2割以上高めたとされる。先代からの向上幅がそのまま新型車の差につながった。

 ホンダとトヨタのハイブリッド技術を比べたとき、これほど大差がつくのは意外である。フィットでは新たに2モーター式の「e:HEV」を採用し、先代の1モーター式から大きく進化させているからだ(図2)。

図2 ホンダの2モーター式ハイブリッド「e:HEV」
図2 ホンダの2モーター式ハイブリッド「e:HEV」
右から発電機、駆動モーター、クラッチ機構、エンジンと並ぶ。「e:HEV」は「イーエイチイーブイ」と読む。従来は「i-MMD」と呼んでいたが、ハイブリッド方式を2モーター方式に一本化するのを機に、名称を変更した。(撮影:日経クロステック)
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 フィットの2モーター式は、「インサイト」(2018年発売)の改良版である。インサイトで発揮した燃費向上能力をそのままフィットに適用すれば、ヤリスの燃費と同等にできたように思える。

 インサイトの燃費性能は28.4km/L(WLTCモード)とヤリスに比べて約2割低いが、1370kgと3割重い車両質量(ヤリスは1050kg)で達成する。車両質量と燃費性能はほぼ比例すると仮定すれば、1180kgのフィットにインサイトの2モーター式を使えば、ヤリス並みの燃費に達し得る。

 ホンダの技術者は、「(フィットの)燃費をもっと良くしようと思えばできた」と打ち明ける。手っ取り早い手段の1つが、リチウムイオン電池の搭載容量を増やすことだろう。モーター走行距離が延びて、制動時の回生電力量を増やせる。

 ただフィットの電池セルの搭載数は48個にとどめてあり、インサイトの60個に比べて少ない。燃費は十分と割り切って電池コストを抑えた分、ホンダが競争力につながると考えた「心地よさ」の実現にコストを回したのかもしれない。

 燃費にこだわらないホンダの決断に対して、トヨタの技術者からは「肩透かし」との声も漏れる。フィットに2モーター式が採用されて大幅に燃費性能が高まることを見込んで、ヤリスのハイブリッド技術を大きく改良した面があるからだ。

 ヤリスの改良範囲は、ハイブリッド技術のほぼ全てに及ぶ。HEVの先駆者として、燃費性能で後発のホンダに負けたくなかったトヨタの意地を感じる。

 例えば4気筒から3気筒に減らして摩擦を抑えた新しいガソリンエンジンを採用し、熱効率を高めた。エンジンとモーターの動力を分割するトランスアクスルは、減速機構を遊星歯車から効率の高い平行軸歯車に変えている。リチウムイオン電池は、出力を高めた新しいセルを採用した。