米Tesla(テスラ)が、従来品よりもコストを抑えたリチウムイオン電池を搭載する電気自動車(EV)「モデル3」を中国で量産することが分かった(図1)。単なる車両の改良ではなく、テスラが練る電池の新戦略の一端と位置付けたほうがいいだろう。二人三脚を長年続けてきたパナソニックとは、電池セルの取引条件を見直した。
テスラが新たに採用する電池は、リン酸鉄リチウムを正極材に使うリチウムイオン電池である。テスラはこれまで、ニッケル-コバルト-アルミニウム酸リチウムから成る、いわゆるNCA系の正極材を使う電池をEVに搭載してきた(図2)。NCA系は高容量にできる特徴があり、テスラとタッグを組むパナソニックが得意としてきた。
テスラが量産EVでNCA系以外のリチウムイオン電池を採用するは、今回が初めてである。材料価格の高騰が続くコバルト(Co)を使わないリン酸鉄系の電池を選んだ。エネルギー密度ではNCA系に劣るが、コスト競争力が高い。テスラは、全てをリン酸鉄系のリチウムイオン電池に置き換えるわけではなく、用途や狙いに応じて使い分ける考えのようだ。
目標は21年に年産100万台
テスラは今、電池戦略の転換期を迎えている。同社CEO(最高経営責任者)のElon Musk(イーロン・マスク)氏は、革新的な電池技術について発表する「Battery Day」を2020年9月に開催する意向を示している。長年パナソニックに託してきた電池のサプライヤーについても、新たに中国CATL(寧徳時代新能源科技)や韓国LG化学(LG Chem)と調達契約を結んだ(図3)。
「生産設備を増強し、21年までに年産能力を100万台超にする」─。20年4月末に開いた決算会見でこう宣言したマスク氏。現在の約69万台の年産能力を拡張するために設備投資を進めるのと並行し、EVのコストを抑えて普及価格帯のEVの拡充を急ぐ。リン酸鉄系の電池を搭載するEVを投入する中国市場では、テスラは20年に入って2度もモデル3の価格を引き下げている。
新電池を備えるEVを生産するのは、テスラの中国・上海工場である。このほど、中国政府から同車両に対して生産の認可が下りた。中国政府の情報産業省に当たる工業和信息化部が公開した文書から明らかになった。
中国では走行性能や1回の満充電で走行できる航続距離の違いで3種類のモデル3をラインアップしている。このうち、リン酸鉄系の電池を採用するのは、最も価格の安いベースモデルである。
販売中のNCA系電池を搭載する車両は、中国基準の測定モードで航続距離が445kmである。テスラとパナソニックが共同出資して米ネバダ州で展開している電池工場「ギガファクトリー1」で生産した電池セルを、中国の上海工場まで輸送している。同車両に搭載する電池パックの質量エネルギー密度は145Wh/kgである。
今後生産を始めるモデル3に搭載するリン酸鉄系の電池パックは、質量エネルギー密度が125Wh/kgとやや低い。加えて、航続距離を約5%延ばして468kmにする計画のため、従来よりも4~5kWh多くの容量の電池を車両に搭載するとみられる。車両質量で比較すると、131kgも重くなる。
今回の改良はコスト低減が最大の目的となっているため、電池は中国で現地調達するのが基本になるだろう。材料費だけでなく、これまで米国から輸送していた電池の輸送費も抑制できる。
テスラはリン酸鉄系の電池のサプライヤーを明かしていない。候補企業の1つとされるのがCATLで、EV用電池をテスラに供給する契約を獲得したことを20年2月に発表している。供給契約の期間は20年7月1日から21年6月30日まで。