トヨタ自動車が新しく開発した排気量1.5Lの自然吸気ガソリンエンジン(図1)。ハイブリッド車(HEV)用で、最高熱効率が41%に達した。3気筒機では、世界最高とみられる。従来機から気筒数を減らし、最近開発した共通燃焼技術を採用した。価格に敏感なユーザーが多い小型車で高い燃費性能を実現し、競合車と差をつける。
小型車「ヤリス」に採用した。従来の1.5L機は4気筒で、新型機「M20-FXS」で3気筒に減らした。最近のエンジンで採用してきた高効率な燃焼形態を新型機に適用するには、気筒の形状などをそろえることが重要になる。4気筒のままで1.5Lにすると、気筒が小さくなりすぎてそろえにくかった。
トヨタは2017年、高熱効率な燃焼を複数機種で共通に採用する「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」エンジンの投入を始めた。
まずは4気筒機からで、排気量2.5Lの「A25A-FXS」を「カムリ」に、続く18年には同2.0Lの「M20A-FXS」をレクサス「UX」に搭載した。ともにHEV用では当時の世界最高値である最高熱効率41%を達成。
新型3気筒機ではこれら2機種と燃焼形態を共通にするなどして、同じ熱効率に達した。最高出力は68kW(5500rpm)、最大トルクは120N・m(3800〜4800rpm)である。
トヨタは燃焼を共通にするため、気筒の内径(ボア)と行程(ストローク)の比率であるストローク/ボア比や吸気弁と排気弁の軸の角度である挟み角、吸気口の形状などをなるべく同じにする考えを採用する。気筒に入る空気の縦渦(タンブル)を強めて混合気を乱し、燃焼を速くできるからだ。
新型機では3気筒に減らしたことで、1気筒当たりの排気量は0.5Lになる。2.0Lの4気筒機と同じ排気量で、これでストローク(97.6mm)とボア(80.5mm)を同じにした上で、挟み角や吸気口の形状をそろえられた。仮に4気筒にして1気筒当たりの排気量を0.375Lにすると、「小さ過ぎて狙いの高速燃焼にできない」(トヨタ技術者)。
加えて、4気筒機と同じ技術を多く採用した。例えば吸気側に電動可変バルブタイミング機構「VVT-iE」を採用した。吸気弁の開閉を高速にした上で閉じる時期を下死点後(ABDC)110度と遅くして、アトキンソンサイクルを実現する。圧縮比より膨張比が大きくなり、熱効率を高められる。なお排気側も4気筒機と同様に油圧式の「VVT-i」を採用する。
燃焼の共通化で熱効率を高めた一方で、4気筒機に比べてコストを減らす工夫も凝らす。低排気量機は、価格競争の激しい小型車に採用するからだ。例えばポート噴射にした。TNGAの4気筒機では直噴とポート噴射を組み合わせた「D-4S」を採用し、コストが高かった。
ポート噴射にすると、直噴に比べて気筒内を冷やしにくく、熱効率を高めにくい。トヨタはピストンリングや弁ばね、油など17部位で少しずつ摩擦を下げる工夫を積み重ねる。ポート噴射にしながらも4気筒機と同等の熱効率を実現した。
さらに電動ウオーターポンプの出力を135Wに下げて、コストを抑えつつ効率を2割超高めた。4気筒機は200Wだった。ウオータージャケットなどに工夫して、エンジンの冷却性能を高めることで実現した。
排出ガス対策については、GPF(ガソリン・パティキュレート・フィルター)を採用し、粒子状物質(PM)の発生を抑えた。欧州の最新の排ガス規制「Euro 6d」に対応する。