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 水素エンジン車が再び脚光を浴び始めた(図1)。水素エンジンの研究は、特許出願数をみると2000年代中ごろにピークアウトしたが、ここ数年、欧州で増加傾向にある。欧州が水素エネルギーに力を注ぎ始めたことが大きい。

図1 BMWは2000年代中ごろに水素エンジンを実用化したが、しばらくして開発を中止した
図1 BMWは2000年代中ごろに水素エンジンを実用化したが、しばらくして開発を中止した
(出所:BMW)
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 背景には、ライフサイクルアセスメント(LCA)で二酸化炭素(CO2)排出量を評価する新しい規制の検討が進むことがある。環境団体の活動も大きい。再生可能(自然)エネルギーの利用が基本となり、そのエネルギーの移動手段(キャリア)として「水素」が重要になる。

 最近、複数の欧州完成車メーカーや部品メーカーが水素エンジンの開発検討を始めた。部品最大手の独Bosch(ボッシュ)は2020年4月、パワートレーン国際会議「第41回Vienna Motor Symposium(ウィーンモーターシンポジウム)」で、水素エンジンの研究論文を発表した。詳細は後述するが、欧州は厳しい環境規制によって減少するディーゼルエンジンの代替として、水素エンジンに期待するようだ。特に、大型商用車メーカーが注目する。

 水素を利用したパワートレーンでは、燃料電池車(FCEV)が有名だ。一方で水素エンジンに注目が集まるのは、原理的に水(H2O)しか排出しないクリーンなことに加えて、既存のエンジンの延長線上にあり、FCEVに比べて安価にできることへの期待が大きい注1)

注1)高負荷運転時に燃焼反応の過程で窒素酸化物(NOx)が多めに排出されるため、基本的には空気過剰率(λ)=2以上の希薄燃焼(リーンバーン)と大量排ガス再循環(EGR)の組み合わせが基本となる。熱効率向上と異常燃焼抑制を狙える。加えて、水素は可燃範囲が広いためにリーンで安定して燃やせる。NOx排出量を数十〜100ppmオーダーに抑えられる。潤滑油が少し燃えるとCO2や炭化水素(HC)を数ppmほど排出するが、クリーンに近い排出ガスと言ってよい。

 燃料の水素については、FCEV用は純度が99.97%以上と高く高価だが、水素エンジン用は低純度のものが使える。もちろん、FCEVが普及してくると同じ水素ステーションなどインフラが流用できる利点も大きい。ただ細かくいえば、低純度用と高純度用の水素タンクを2系統設置したほうがよいかもしれないが。