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 ルネサスエレクトロニクスは車載半導体に関するイベントを2020年10月に開いた。これまで「R-Carコンソーシアムフォーラム」として開催していたもので、今回は「ルネサスオートモーティブセミナー with R-Carコンソーシアム」というオンライン会議となった。クルマの電気/電子(E/E)アーキテクチャーの変化や、自動車メーカーによる基本ソフト(ビークルOS)の開発など、興味深い話題が多かった。

 クルマのE/Eアーキテクチャーは、分散型から集中型(セントラル型)やゾーン型に変化している(図1)。従来型の「クラシックECU(電子制御ユニット)」から、OTA(Over The Air)によるソフトウエア更新に対応した「アダプティブECU」への変化ともいえる。ルネサスはクラシックECU向けのマイコン事業で培った強みを、アダプティブECU向けの車載SoC(System on Chip)事業に生かしたい考えだ。

図1 クルマのE/Eアーキテクチャーの変化
図1 クルマのE/Eアーキテクチャーの変化
従来の分散型アーキテクチャーではOTAによるソフト更新が難しい。今後はソフト更新が容易な集中型またはゾーン型が必要になる。(ルネサスの資料を基に日経Automotiveが作成、写真はVW)
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 その際に重要になるのが、ソフトの再利用性(スケーラビリティー)だという(図2)。多くの自動車メーカーや1次部品メーカー(ティア1)は長年にわたってルネサスのマイコン上で動くソフトを開発してきた。アダプティブECUになっても、ルネサスの車載SoCを使えば、そうした過去のソフト資産を再利用でき、開発リソースを節約できるというわけだ。特に過去のクラシックECUの機能を含むアダプティブECUの開発では重要になる。

図2 ルネサスのソフトウエア再利用性
図2 ルネサスのソフトウエア再利用性
マイコン向けに開発した過去のソフト資産を、最新の車載SoC上で再利用できる。(出所:ルネサス)
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 アダプティブECUはソフトとハードを分離できる構造であり、ハード(半導体)は自由に切り替えられると思われがちである。ところが、ADAS(先進運転支援システム)や自動運転ではリアルタイム性が求められるため、「ハードを切り替えた際にソフトがきちんと動作するか検証し直す必要がある」(ルネサスエレクトロニクス オートモーティブソリューション事業本部 副事業本部長の片岡健氏)。このため、「開発プロジェクトの初期に採用されたハードがその後も使い続けられる可能性が高い」(同氏)という。

 パソコンやスマホの世界でもソフトとハードは分離可能と言いながら、実際にはプロジェクトの初期から参画していた半導体メーカーのチップがデファクトスタンダード(事実上の標準)となる場合が多い。人命を預かるクルマでは、ソフトとハードの分離が難しく、こうした傾向が一層強いのかもしれない。