ホンダは2020年11月、軽自動車「N-ONE」を全面改良して発売した(図1)。8年ぶりの全面改良となる新型車は、外観デザインを先代から変えないという決断を筆頭に3つの非常識と向き合った。機能面では、同社の先進運転支援システム(ADAS)「Honda SENSING」を全車に標準搭載して予防安全性能を高めた。また、ボディー骨格を刷新し、全方位の衝突安全に対応した。
「デザインを大きく変えないというモデルチェンジに取り組んだ」。新型N-ONEの発表会で登壇した開発責任者の宮本渉氏(同社四輪事業本部ものづくりセンター)の言葉はさらりとしていた。
外板パネルや窓ガラスなど外観部品の多くを先代から流用するという異例の全面改良を実施したにもかかわらず、である。開発の佳境には新型コロナウイルスの感染拡大が直撃したが、「生産に問題が出ないように対応した」(同氏)と語り、影響は軽微だったとした。
結果だけを見れば、開発は予定通りである。だが、12年の初代投入以来、初となる全面改良を果たした新型N-ONEが20年11月の発売を迎えるまでの道のりは決して平たんではなかった。責任者を務めた宮本氏をはじめとする開発陣に話を聞くと、多くの悩みと向き合い奮闘してきたことが分かる。
変えるために変えるべきか?
新型N-ONEは開発で、(1)外観デザインの全面踏襲、(2)新型コロナウイルスの直撃に加えて、(3)外部からのサイバー攻撃という3つの非常識に直面した。3点目のサイバー攻撃は20年6月に起きたもので、国内外9工場の操業を止める事態になったことが報じられたが、実は開発現場にも大きな影響が出ていた。
「営業の立場から言えば、外観を変えたほうが売りやすい。極論を言えば、パワートレーンなど中身が同じでも、外観のデザインが新しくなれば新型車として訴求しやすいので」。N-ONEの販売や営業を担当する矢野達也氏(ホンダ日本本部商品ブランド部商品企画課チーフ)が打ち明ける。
N-ONEのデザインはどうあるべきか─。2代目となる新型の開発がスタートしてすぐ、デザインチームはこれまでの新型車開発に倣って新しいN-ONEの外観スケッチに取り掛かった(図2)。
初代N-ONEのデザインは、1967年に登場したホンダの軽自動車「N360」を継承したもの(図3)。小さく丸い見た目から「Nっころ」の愛称で親しまれた名車をベースに、「丸・四角・台形」という外観デザインの特徴を打ち出した。
2代目も「丸・四角・台形」のコンセプトを受け継ぎながら何度もスケッチしたが、「デザインを変えるとN-ONEらしさが崩れてしまうという壁に何度もぶつかった」(宮本氏)という。その後いくつかの候補に絞り、実車と同じ1分の1サイズでクレイ(粘土)モデルまで製作したが、どうしてもN-ONEらしさが崩れてしまう。
「変えるために変えるのではなく、潔くそのまま出そう」。スケッチ開始から半年以上の時間を使って、宮本氏は外観デザインを変えないという結論を出した。