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 無人で走る「レベル4」の自動運転開発でトップランナーの米Waymo(ウェイモ、Google親会社であるAlphabet傘下)。時間はかかったが、本格的な商用化が目前との見方が強まる(図1、2)。安全に関する最新の報告書や論文を読み解くと、かつての孤高の存在から既存の自動車業界に寄り添い、さらに事故の実態を赤裸々にする「現実路線」にかじを切る姿が浮かんできた。自動運転の走行距離は群を抜く上、事故率は低い。国内自動車メーカーとの実力差は広がる一方だ。

図1 米アリゾナ州チャンドラーにある自動運転車の待機場所
図1 米アリゾナ州チャンドラーにある自動運転車の待機場所
(出所:Waymo)
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図2 無人運転の配車サービスを実用化している
図2 無人運転の配車サービスを実用化している
(出所:Waymo)
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 自動運転の商用化で技術や事業モデルなどと同じくらいに重要なのが、安全基準である。どうすれば「安全な自動運転車」と見てもらえるのか、事故が起こったときに自らの責任がないことをどう示すのか、各国・地域で議論が進む。これまで既存の自動車業界と距離を置き、ほとんど単独で自動運転システムを開発してきたWaymo。安全基準の考え方や枠組みを作るのは協調路線が得策と判断したのか、自動車業界や競合の考えを採り入れ始めた。

 Waymoが2020年10月に発表した安全に関する報告書「安全への方法論と準備の決定(Waymo’s Safety Methodologies and Safety Readiness Determinations)」。自動運転システム開発のティアフォー創業者で東京大学准教授の加藤真平氏は、2年前の前回報告書と大きく異なるのが「運行設計領域(ODD:Operational Design Domain)」の考えをとりわけ強調していたことだと読み解く。

 ODDとは安全に走れる条件のことで、具体的には走行範囲や天候、速度などである。ODDの条件下だけで自動運転させ、条件を外れるときは自動運転で走らせない。ODDはどちらかといえば自動車業界から生まれた発想で、自動運転のハードルを少しでも下げたい考えが根底にある。加藤氏は、WaymoがODDを重視した安全指針を打ち出したことに対して「実ビジネスをかなり意識し始めた」と分析する。

 WaymoはかねてODDの考えを実施していたものの、それこそ米国全体に及ぶ広範囲のODDを想定しているかに思えた。それが最新の報告書では「配車ビジネスなどで必要な都市単位のODDに限定している印象で、技術のハードルを下げてきた」(加藤氏)というのだ。どこでも走れる理想の技術を追いかける姿勢から、本格的な商用サービスをすぐにでも始められる現実路線への転換と見るわけである。

 Waymoの報告書でもう1つ注目を集めたのが、自動車開発で重要とされる機能安全規格「ISO 26262」に対して、レベル4の自動運転システムを「完全に適用できない」と否定的な立場を示したことである。想定される故障のリスクを全て洗い出し、その対策を記した仕様書を作る考えを自動運転に転用するのは無理ということなのだろう。国内では機能安全を実現しなければ実用化できないと考える自動車技術者が目立つ印象だが、徒労というわけだ。

 WaymoのISO 26262に対する考えについて、加藤氏は「自動運転に携わる技術者ならば誰もが思っていたことを明言してくれた」と喝采を贈る。自動運転システムの開発とは運転者(ドライバー)を開発するのと同義であり、車両開発の安全基準を“運転者"に適用するのはそもそも無理がある。