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 日産自動車が2021年2月中旬に発表した欧州市場向け新型SUV(多目的スポーツ車)「Qashqai(キャシュカイ)」(図1)─。同社はそのハイブリッド車(HEV)モデルに欧州初となる「e-POWER」を搭載した。だが、それは日本市場に投入しているものと大きく異なる。同社パワートレイン・EV技術開発本部パワートレイン・EVプロジェクトマネージメント部エンジンプロジェクトマネージメントグループ アライアンスPEDの木賀新一氏に理由と狙いを聞いた。

図1 日産自動車が21年2月中旬に発表した欧州市場向け新型SUV「キャシュカイ」
図1 日産自動車が21年2月中旬に発表した欧州市場向け新型SUV「キャシュカイ」
(出所:日産自動車)
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 e-POWERは、電気自動車(EV)パワートレーンと並んで、同社が今後の2本柱に据えるパワートレーンの1つだ。エンジンを発電専用に使い、モーターだけで駆動力を得るシリーズ・ハイブリッド・システムとして、同社が16年11月に市場投入した。それから4年超の歳月を経て、同社はついに欧州にe-POWERを投入する。

 興味深いのは、同じe-POWERでも高速走行の多い欧州市場の特性を考慮して、日本市場向けとは大きく変えてきている点である。具体的には、日本市場向けの新型小型車「ノート」のe-POWERでは、排気量1.2Lの直列3気筒エンジンを発電専用に使い、最高出力85kWのモーターを駆動用に搭載する。これに対して、欧州市場向けの新型キャシュカイのe-POWERでは、ターボ付きの排気量1.5L直列3気筒VCR(可変圧縮比)エンジンを発電用に利用し、駆動用モーターも140kWと最高出力を高めている(図2)。

図2 16年のパリモーターショーに出展した日産のVCR(可変圧縮比)エンジン
図2 16年のパリモーターショーに出展した日産のVCR(可変圧縮比)エンジン
排気量2.0L、直列4気筒のVCRエンジン。キャシュカイには、排気量1.5L、直列3気筒の新開発のVCRエンジンを搭載する。(出所:日産自動車)
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 新型キャシュカイの発電用エンジンの最高出力は「116kW」(木賀氏)で、新型ノートのそれの2倍に近い。当然、発電機やインバーターもそれに合わせて性能を上げている。新型キャシュカイのe-POWERでは、発電機の最高出力は「116kWに近い仕様になっている」(同氏)。

 背景にあるのは、HEVは搭載する電池の容量が小さいことだ。欧州では高速道路を連続走行するケースが多い。「電池(の電力)が枯渇すると、エンジンで発電した電力で走らなければならない。その状況が続くと、排気量が小さく出力が不十分なエンジンでは最高速を維持できなくなる」(同氏)。新型キャシュカイのe-POWERでは、それを考慮し、排気量を1.5Lに増大した上で、ターボも付けた。

 もっとも、最高速を維持するだけならここまでの出力は要らなかった。「欧州では、140km/hとか150km/hからの追い越しなど、高速走行からの加減速が多い。それを考えて出力に多少余裕を持たせた」(同氏)という。