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 エンジンに逆風が吹く中、日産がエンジン開発に力を注ぐのは、自動車のライフサイクル全体で評価するLCA(Life Cycle Assessment)を考慮すると、各国・地域の電源構成によってはEVとHEVの二酸化炭素(CO2)排出量が拮抗するとみるからだ。日産でパワートレーン開発を統括する平井俊弘氏(専務執行役員)は「再生可能エネルギーの導入量次第では、e-POWERでEVといい勝負ができる」と分析する。

 日産は、30%前後のエンジン熱効率から38%の現在水準にこぎ着けるのに約50年かけた。今後わずか5年で過去50年分を上回る10ポイント以上の向上を狙うことになる。世界でCO2排出量規制が格段に厳しくなる見通しで、開発を急ぐ。e-POWERのようなシリーズHEVの場合、エンジン運転領域を狭められるため熱効率を高めやすい特徴を生かす。

 さらに日産は今後、発電専用エンジンで培った技術を基に、通常のエンジンを開発する構想を明かす。これまでのような通常のエンジン車の技術をHEVに転用する流れとは逆で、HEVが主役の時代をにらんだ新しい発想といえる。

熱効率向上の鍵を握る「STARC」燃焼

 日産は大きく3段階かけて50%に到達する算段である(図3)。(1)理論空燃比(ストイキオメトリー)燃焼で43%、(2)希薄燃焼(リーンバーン)で46%、(3)廃熱回収技術などを追加して50%─である。現時点で第2段階の46%に達した実験機の開発に成功している。第3段階については技術的なめどをつけており、これから実証に入る。

図3 50%達成に必要な要素技術
図3 50%達成に必要な要素技術
ストイキ燃焼でも廃熱回収技術と組み合わせることで45%達成を視野に入れる。日産の資料を基に日経クロステックが作成。
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 46%を達成した試作エンジンの排気量は1.5Lで3気筒。直噴でターボチャージャーを搭載する。最大の特徴は、部品構成を簡素にしながらリーンバーンを実現したことである。発電専用のため、走行中にほとんど同じ回転数とトルクで動作するいわゆる「定点運転」にできる利点を生かした(図4)。圧縮比はターボを装着しながら13.5と高い。

図4 高熱効率点でほとんど運転
図4 高熱効率点でほとんど運転
高出力点も必要に応じて利用する。日産の資料を基に日経クロステックが作成。
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 46%達成機の開発責任者である鶴島理史氏(パワートレイン・EV先進技術開発部第一次世代パワートレイン・EV開発グループ主管)は「定点運転により、簡素な構成ながらも熱効率を突き詰めた」と自信をのぞかせる。基本的に2000~2400rpmくらいで運転する注)

注)定点は2つあり、1つが2000~2400rpmくらいの熱効率重視点で、ほとんどこの近辺で運転する。もう1つは最高回転数の4800rpm付近の高出力点で、車両のけん引など大きなトルクが必要な場合を想定する。

 最近、マツダとスバルがリーンバーンエンジンを相次いで量産化している。2社のエンジンは日産と異なり、広い負荷域で動作し駆動力を直接車輪に伝えることを前提としたもの。圧縮着火といった難度の高い技術の実現にコストをかけたり、ある程度の熱効率向上でとどめたりしている。日産は定点運転により狭い負荷域に絞ることで、簡素な構成で低コスト化と高熱効率を両立する考えである。