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 熱効率向上の鍵を握るのが「STARC(Strong Tumble and Appropriately stretched Robust ignition Channel)」と名付けた独自の燃焼手法である。気筒内に入れる空気の縦渦(タンブル)を強くして混合気の乱れ強度を高めつつ、点火系に工夫して安定した着火を実現する。最近では自動車各社がタンブル強化に力を注ぐが、日産は定点運転の特徴を生かして、タンブルを他社に比べてかなり強くしている。

 タンブルを強くするとピストン圧縮時に混合気の乱れが強くなり、燃焼を促進できる。リーンバーンの課題である燃焼速度の低下を抑えるのに寄与する。実験機ではタンブルの指標となるタンブル比が日産基準で4に達した。現行e-POWER用エンジンの2倍近くという。

 リーンバーンで課題となる着火性の向上のため、点火手法にも工夫した。点火プラグのエネルギーは100mJ超と通常品より少し高いくらい。それでもプラグ先端付近のガス流動の向きや強さを制御して、プラグの中心電極と接地電極の間に生じる放電経路を伸長し、初期火炎核の安定形成にこぎ着けた(図5)。

図5 点火プラグの放電経路を伸長
図5 点火プラグの放電経路を伸長
点火プラグ先端を適切なガス流動にすることで、放電経路を伸長できる。(a)はガスの流速が遅くて伸長しない場合、(b)はうまく伸長した場合、(c)は流速が速くて吹き消された場合。(出所:日産)
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 放電経路を伸長するガス流動の実現には、2000rpm程度で運転し続ける定点運転を前提としていることが役立つ。回転数が上がればガス流動は強くなり過ぎるし、下がれば逆で伸長しにくくなる。

 燃料噴射装置の噴射圧は35MPaと高めだが、最近ではよくある水準。リーンバーンのように難しい燃焼には噴射圧をもっと高める選択肢もある。燃料を微粒化して、燃焼を促進しやすくなるからだ。

 日産は気筒の中央に噴射装置を配置するセンター噴射にすることで点火プラグと近づけ、この程度の噴射圧で十分な着火性を確保した。センター噴射にすることで、点火プラグ付近だけ燃料を少し濃くする弱成層にしやすくなる。従来は吸気ポートの下に配置するサイド噴射だった。

 センター噴射としたのには、タンブルを強くする狙いもある。吸気ポートの向きをペントルーフ(三角屋根)に沿う寝かせた形状として、吸入空気を気筒内に強く入れられる。サイド噴射の場合は吸気ポートの向きが噴射装置を避けるように屋根に対して立つ形となり、筒内の入り口で流れがはく離しがちだった。

 さらにセンター噴射とすることで、粒子状物質(PM)の排出量を減らせる利点も大きい。サイド噴射に比べてシリンダーライナーへの燃料付着量を減らせるためである。

希薄燃焼とストイキ燃焼で部品ほぼ同じ

 一方で弱成層にすると、排ガスの窒素酸化物(NOx)が増えやすくなる。日産の実験機は定点運転に近いため、NOx排出量を抑えられるという。NOxは回転数やトルクを変化させる過渡領域で多く発生するからだ。

 空気過剰率で2.5に達するリーンバーンの運転時、NOxは30ppm以下に抑えられるとする。ただそれでも次世代排ガス規制「Euro 7」への対応を見据えると、NOx後処理装置の追加は必要になるとみる。

 気筒をロングストロークにしたことも熱効率の向上に寄与した。気筒の内径(ボア)は79.7mm、行程(ストローク)は100.2mmで、ストローク/ボア(S/B)比は1.26だ。現行ノートのe-POWER用エンジンが同1.07で、かなり細長い。熱効率を高められるものの最高回転数は低くなりがちだ。実験機では4800rpmにとどまる。

 鶴島氏は「熱効率に焦点を当てるとS/B比をさらに大きくすることもできるが、(回転数が下がり)出力が低下する。出力とのバランスを考えると、1.25~1.30くらいが最適」と考える。開発機の比出力はストイキ燃焼時に85kW/Lと十分に高い。

 ただしロングストロークにすると、エンジンの背が高くなる。車両によっては搭載しにくい。日産はマルチリンク機構の可変圧縮比(VCR)技術を開発しており、同機構を利用することでロングストロークとエンジン高の抑制を両立する考えである(図6)。

図6 VCRのリンク機構でロングストローク化
図6 VCRのリンク機構でロングストローク化
既存のエンジン構成でロングストロークにすると、コンロッドが横に振れたときに気筒に当たることを回避するため、コンロッドが極めて長くなる。日産が開発したVCRのリンク機構では、リンクの横揺れを抑えられて、ロングストローク化しやすい。日産の資料を基に日経Automotiveが作成。
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 一方、ストイキ燃焼では、リーンバーンで空気を大量に入れる代わりにEGR(排ガス再循環)量を増やすことで、熱効率を43%に高めた。吸気ガスに占める排ガスの比率であるEGR率は約30%とかなり高く、大量の排ガスを気筒に戻している。

 EGRをこれほど増やすと燃えにくくなるが、STARC技術により安定した燃焼を実現する。しかも点火系や噴射系の構成はストイキ燃焼時とリーンバーン時で「ほとんど同じ」(鶴島氏)という。リーンバーンの場合は点火エネルギーを少し大きくするくらいのようだ。