スウェーデンVolvo Cars(ボルボ)のフラッグシップが代わる。同社は2022年11月9日、大型SUV(多目的スポーツ車)タイプの電気自動車(EV)「EX90」を世界初披露した。これまで旗艦車と位置付けてきた大型SUV「XC90」より一回り大きく、LiDAR(レーザーレーダー)の標準搭載によって予防安全機能を進化させた(表)。
「今日がボルボの新しい時代の始まりだ」─。同社社長兼CEO(最高経営責任者)のJim Rowan(ジム・ローワン)氏は、スウェーデン・ストックホルムで開いたEX90の発表会でこう宣言した。そして、「EX90は当社がこれから向かう場所を示している」(同氏)と言葉を継いだ。
ボルボは、2030年までにEV専業メーカーとなる計画を掲げている。EX90を発表した前日には、内燃機関の開発・製造から完全に撤退することを発表した。中国・浙江吉利控股集団(吉利グループ)と合弁で設立したエンジン関連企業のスウェーデンAurobay(オーロベイ)の株式を33%保有しているが、2022年末までに全て吉利に売却する方針を示した。
車内外に多数のセンサー
EV専業メーカーへと向かうボルボが、今後も“絶対に負けられない”領域として注力するのが「安全」だ。EX90は先進運転支援システム(ADAS)をはじめとする予防安全機能を刷新した。
「将来の自動運転に対応するハードウエアを備えた最初のボルボ車」(同社)と表現する新型車の特徴の1つが、ルーフトップに配置したLiDARである(図1)。LiDARは前方監視用で、最大250m先の歩行者や120m先の黒い道路上のタイヤのような小さくて暗い色のものを検知できるとする。米スタートアップのLuminar Technologies(ルミナー・テクノロジーズ)製で、光源に波長1550nmのレーザー光を使う。
EX90にはLiDARの他に、8個のカメラと5個のレーダー、16個の超音波センサーを搭載する。これらのセンサーで取得したデータは、米NVIDIA(エヌビディア)の車載SoC(System on Chip)である「DRIVE Orin」や「DRIVE Xavier」を搭載するECU(電子制御ユニット)で処理する。冗長性を確保するためにECUは2個用意した。演算処理性能が高いため発熱量が多くなり、その対策として水冷機構を備える。
車内にも、カメラやミリ波レーダーを配置する。カメラは運転者監視用で、2個使う点が珍しい。運転者監視システム(DMS)を採用する自動車メーカーは増えているが、カメラ1個を使うシステムが一般的。2個のカメラで異なる角度から運転者を撮影することで、状態監視の精度を高めた。
ミリ波レーダーは子供やペットなどの車内置き去り事故を防ぐためのもの。眠っている子供が呼吸するときの、かすかな動きを検出できる精度と感度を持つ。ミリ波レーダーは1座席あたり1個必要で、7人乗りのEX90では天井付近に7個配置した。使用する周波数は60GHz帯。サプライヤーは、アルプスアルパインである。