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 ホンダが2022年9月に発売した高性能ハッチバック「シビックタイプR」(図1)。パワートレーンには、排気量2.0Lのターボエンジンを搭載する。先代型のエンジン骨格を基本としながら、ターボチャージャーの設計やエンジン制御を変更した。「新型のターボエンジンが目指したのは、自然吸気(NA)エンジンのような高回転、高レスポンス(応答性)だ」とシビックタイプRの開発責任者を務めた同社開発戦略統括部開発企画部開発企画二課、チーフエンジニアの柿沼秀樹氏は語る。

図1 新型シビックタイプR
図1 新型シビックタイプR
FF(前部エンジン・前輪駆動)の高性能車だ。(写真:日経Automotive)
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転機は2015年発売のFK2型

 初代から2010年ごろまでのタイプRは、NAエンジンを採用してきた(図2)。NAエンジンはターボエンジンと比べて、より高回転でエンジンが回るとともに、アクセルペダルの踏み込みに対する加速の応答性が高い特徴がある。例えば、2007年に発表したFD2型が搭載した排気量2.0LのNAエンジンは、最高出力165kWを8000rpmの高回転域で発揮していた。

図2 2009年と2010年に限定販売したFN2型の2L・NAエンジン
図2 2009年と2010年に限定販売したFN2型の2L・NAエンジン
高回転、高レスポンスが特徴だ。(写真:日経Automotive)
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 転機となったのが、2015年に日本で限定販売したFK2型だ。FK2型からNAエンジンをターボエンジンに切り替えた。柿沼氏は「NAでは実現できない環境性能と高出力化を両立するため、ターボエンジンにかじを切った」と話す。

 ターボチャージャーは、エンジン燃焼時の排ガスを利用して、エンジンの出力を補助する。そのため、排気量が同等のNAエンジンと比較して、排ガスを低減しつつ、燃費を改善できる効果がある。出力もFK2型は、FD2型の最高出力165kWから228kWに向上した。

 しかしターボエンジンには、NAエンジンと比べ、加速のレスポンスが悪いという欠点もある。ターボチャージャーは加速時に、ある程度エンジンの回転数がないと、過給圧を発揮できない。そのため、低回転から加速する際、ターボが効くまでラグがあるのだ。エンジンの回転数の上限もNAエンジンより低い。NAエンジンの高回転まで伸びる、ラグの少ない加速やエンジン音を好むタイプRの愛好家も少なくない。