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Zメカニズム技研は、単気筒エンジンでも振動を抑えられる機構「Z-CCR」を開発し、日本特許を取得した。現在、空気や冷媒の圧縮機について用途開発を進めている(図1)。ドローン用の2ストロークエンジンを試作し、既に試運転を始めた(図2)。自動車用エンジンへの展開も視野に入れている。

図1 300kPaの空気圧縮機
図1 300kPaの空気圧縮機
幅50×奥行き90×高さ80mm。(撮影:筆者)
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図2 ドローン用の2ストロークエンジン
図2 ドローン用の2ストロークエンジン
シリンダーの反対側が掃気ポンプだ。(撮影:筆者)
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 往復運動を回転運動に変えるエンジン、その逆の圧縮機。要求される出力が小さい場合、部品点数の少ない単気筒にしたい。ところがクランク機構を使うと単気筒では振動がどうしても大きくなる。質量の大きな部品が往復運動するためだ。釣り合い重りで釣り合わせるのだが、往復運動による振動を回転運動する釣り合い重りによる振動で打ち消すことになる。完全に釣り合わせると、左右方向注1)に振動が出てしまう。そのため中途半端に釣り合わせることになり、どうしても振動が残る。

注1)方向に制約はないのだが、ここでは上がヘッド、下がクランク軸、クランク軸が前後に通る配置として方向を示す。

太い外軸の中に細い内軸

 Zメカニズム技研は単気筒注2)でも不釣り合いによる振動を抑えられる往復運動-回転運動変換機構「Z-CCR(Z-Counter Crank Rotation、二重偏心揺動直線運動変換機構)」を開発した。機構は基本的に内外2本の軸だけからなる単純なものだ(図3)。太い外軸があり、その軸方向、偏心した位置に穴を開ける。穴の中を細い内軸が回る。内軸の前端と後端には内軸の中心から偏心した位置にピンがある。偏心させるためにウェブを挟む。ここに釣り合い重りを置く。

注2)同社は多気筒エンジンについては既に「X-Y分離クランク」という技術を開発済みである(日経Automotive、2018年2月号、「第1回:コンロッドのないエンジン(上)」、同3月号、「第1回:コンロッドのないエンジン(下)」)。圧縮機については引き合いがあり、ユーザー各社で試作が進んでいる。

図3 Z-CCRの構造
図3 Z-CCRの構造
左端の垂直スライダーは省略した。以下、図はすべて圧縮機。(出所:Zメカニズム技研)
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 外軸の穴の面(=内軸の表面)が外軸の中心を通るように偏心量と穴の直径を決める。ピンの中心線は外軸の穴の面を通るように決める。前端のピンが垂直のスライダー、後端のピンが水平のスライダーに沿って動くように案内する。

 リンク機構に置き換えて考えると分かりやすい(図4)。内軸の中心をAとする。BとCをつなぐリンクBC、OとAをつなぐリンクOAがあると考える。リンクOAの長さをrとすると、回転角$θ$とAのxy座標の関係はy = r sin$θ$、x = r cos$θ$である。

 外軸を回すとAが回転運動し、Bはy軸上を上下に直線運動し、Cはx軸上を左右に直線運動する(図5)。動作範囲は-2r≦x≦+2r、-2r≦y≦+2r。これで回転運動を直線運動に変えたことになる。逆に直線運動を回転運動に変えることもできる。Bと共通のピンにコンロッドを取り付けてピストンと連結し、エンジンや圧縮機として使う。

図4 図3を軸端から見る
図4 図3を軸端から見る
リンクOA、リンクBCからなるリンク機構になる。(出所:Zメカニズム技研)
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図5 A、B、Cの軌跡
図5 A、B、Cの軌跡
Aが回転運動、BとCが往復運動する。 (出所:Zメカニズム技研)
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 クランク機構ではコンロッドがあまり大きく傾くとシリンダーの下端に当たる。当たらないように設計するとボアに対してストロークをあまり長くできない。ロングストロークにすると燃焼室壁の面積が相対的に狭くなるので伝熱損失を小さく、燃焼時間を短く、燃費を良くできる。Z-CCRはコンロッドが傾かないのでロングストロークにできる。

 外軸、内軸の支持、スライダー上を転がるローラーの支持をすべて転がり軸受にすると、滑り摩擦するのはシリンダーとピストンの間だけになる。横力はスライダーが担当するのでピストンの横力による摩擦損失がない。スライダーに横力は加わるのだが、ピンにローラーを付けて転がり接触にすればシリンダー-ピストン系より摩擦損失は小さい。この場合、前述した「外軸の穴の面」は転がり軸受の転動体の中心の軌跡になる。

縦も横も打ち消せる

 Z-CCRは単気筒では振動が大きいというクランク機構の弱点を克服できる。まず振動の原因であるピストン系を軽くでき、往復運動による加振力が小さい。ピストンとコンロッドが直結しているのでピストンピンがない。ピストンがコンロッドを押す力は軸力として伝わる。間にピンがあるとせん断力として伝わるので、ピンがどうしても重くなる。コンロッドは曲げを受けず、軸力だけを受ける。座屈だけを心配して設計すればよいので、細くできる。

 それでも残る加振力による振動を、釣り合い重りで打ち消す。

 まず上下方向の振動だ。外軸には内軸の入る大きな穴が開いているので、外軸の重心は内軸の反対側にある。ピンが上死点にいるとき、図4で言うとy = 2rのときに外軸の重心が一番下にくる。ピンが下死点にいるときに外軸の重心が一番上にくる。必要に応じて肉抜きを追加、または釣り合い重りを取り付けて釣り合いを調整する。これで上下の振動を完全に打ち消すことができる。

 これだけでは外軸の重心が左右に動くため左右方向の加振力を出してしまう。ここからが内軸の出番である。

 内筒は点Cの場所に重心がくるように肉抜きをする。または釣り合い重りを取り付ける。内軸の重心は左右に直線運動する。外筒の重心が右にいれば内軸の重心は左に、外筒の重心が左にいれば内軸の重心は右にいるので、外軸による左右方向の振動を打ち消すことができる。回転角と高さの関係がx = r sin$θ$だから2次振動はない。

 つまり、この機構は単気筒でありながら振動を出さないということになる。

 なお、ここまでの説明は図4の平面上の釣り合いを示した。内軸の重心、外軸の重心がコンロッドと同じ平面にあれば、これだけで良いのだが、実際にはコンロッド、外軸の重心、内軸の重心が軸上でずれ、それによるすりこぎ振動が出る。これに対しては別途2面釣り合いを取る。多気筒エンジンでも違う平面にある別の気筒同士で振動を打ち消しているから、同じやり方だ。