“保持器のない軸受”を開発してきた空スペースが、新たな4点接触玉軸受を開発した。軽自動車未満の超小型モビリティーに応用すれば、歯車機構などを大幅に小型化できる可能性がある。これまで4点接触玉軸受は保持器が摩耗しやすく、自動車用途に使いにくかった。保持器をなくすことで弱点を克服した。
空スペースは、保持器を使わずに玉同士を非接触にする技術「自律分散式転がり軸受(Autonomous Decentralized Bearing、ADB)」注1)の応用製品として、4点接触玉軸受を開発、サンプル受注を始める(図1)。
注1)日経Automotive、2017年6月号、メカニズム詳解「損失小さい軸受、燃費改善の鍵に」を参照。
同社はこれまで、深溝玉軸受、単列、複列のアンギュラ玉軸受という3形式のADBを販売してきた注2)。これに4点接触玉軸受が加わり、広い需要に応える体制ができた。
注2)日経Automotive、2019年1月号、「熱しやすく、冷めにくい、板金の2重構造で実現」を参照。
ADBをかいつまんで説明する。外輪に小さな溝を掘り、玉の動きを制御する。玉の間隔が自律的に均等になるので、保持器が要らなくなるというわけだ。
今回開発した4点接触玉軸受は自動車ではなじみがないが、航空機用ジェットエンジンではよく使う軸受なので、広く使われる素質がある。玉が内輪と2点、外輪と2点で斜めに接触しているため、両方向からのスラスト力注3)を受けられる。
注3)スラスト力とは、回転軸の軸方向に働く力を指す。
深溝玉軸受は“深溝”だからスラスト力を受けることはできるが、基本的にはラジアル軸受である。波ワッシャーなどで軸を片方に押し付けた場合の接触角は13度程度と小さく、掛けられるスラスト力も小さい。アンギュラ玉軸受の接触角は15度、30度、40度の3種類あり、スラスト力は大きい。
これに対して4点接触玉軸受の接触角は25度あるため、深溝玉軸受以上のスラスト力を掛けられる。アンギュラ玉軸受を向かい合わせに2個並べたものに、ほぼ相当する(図2)。
モーメント荷重注4)もかけられる。深溝玉軸受にモーメント荷重をかけることは禁止である。極論だが、4点接触玉軸受は1個の軸受で1本の軸を支えられる。現在、ウエハーをハンドリングする真空用のスカラ型ロボットの先端にある関節は4点接触玉軸受1個で支えている。
注4)モーメント荷重とは、回転軸を傾ける荷重を指す。
“軽自動車未満”の1人乗り、2人乗りの車種なら負荷が小さいのでハブ、差動歯車機構など駆動系の用途が考えられる。それ以上のクラスでは駆動系では厳しいかもしれないが、水ポンプなどの補機、ステアリングには十分使えるはずだ。