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EVの普及は電池の進化がカギとなる。リチウムイオン電池の性能向上は、正極材のニッケルの比率を高めることで進む。セルのコストが100ドル/kWhを達成すると、車両価格と車両コストが同等になる。ポストリチウムイオン電池として期待される全固体電池は、2030年頃の実用化が有力だ。

 本連載ではマクロ・ミクロの両面からEV(電気自動車)の市場性を見てきた。今回はEV普及に向けて、最大の技術的なボトルネックとなる電池を取り上げる。

 EV普及の課題として挙げられるのが「車両コスト」「航続距離」「充電時間」の3点である。このうち「車両コスト」に関しては、電池コストが、特にエンジン車との価格差の観点から大きい。エンジン車とEVの両方の車両原価(概算)を試算し、比較した(図1)。

図1 EVのコスト構造試算
図1 EVのコスト構造試算
60kWhの電池を搭載した場合、セルコストが1万2000円/kWh程度になると、コストと販売価格が同等レベルになる。出所:VWのWebサイトや各種2次情報を基にADL作成
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 EVの場合、エンジン車からエンジンや変速機を省き、代わりにモーターやインバーター、電池を新たに加えることになる。モーターとインバーターだけであれば、エンジンと変速機の合計よりも、コストはやや低くなり、電池のコストでEVのコストが決まる。

 電池コストは「搭載容量」×「容量当たりコスト」となる。例えば、ドイツ・フォルクスワーゲン(Volkswagen、VW)「ゴルフ」のEVモデル(e-Golf)では、35.8kWhのリチウムイオン電池を搭載する。2015年当時の最安レベルの電池パックコストを2.5万円/kWh程度とすると、エンジン搭載のベースモデルに対して60万円程度の価格上昇に抑えている現在の価格設定では赤字であると想定される。

 一方、2020年頃に発売されるとみられる次期モデルでは、1台目需要を満たすため航続距離を400km程度となり、電池の搭載容量は60kWh程度まで増えると予想される。2020年の電池コストがVWの想定通り1.2万円/kWh以下になり、車両販売価格が現在と同水準であれば、収益性は損益分岐点から数%になるとみられる。

 次にこのような電池のコストダウンが実現可能かを、技術面と事業面の両面から見てみる。現在車載用途で主流である液体の電解質を用いた液系リチウムイオン電池に関して、技術面からのコストパフォーマンス改善の最大の要因となるのが正極材の進化である。リチウムイオン電池の正極材の技術ロードマップを示した(図2)。

図2 リチウムイオン電池の正極技術開発ロードマップ(2015〜2030年)
図2 リチウムイオン電池の正極技術開発ロードマップ(2015〜2030年)
今後5〜10年程度で、ニッケル:コバルト:マンガンの比率が1:1:1から8:1:1となり、ニッケル比率が高まると見られる。出所:インタビューや各種2次情報を基にADL作成
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 従来は、電池メーカーやユーザーである自動車メーカー各社が、独自の性能の最適化を目指してマンガン系(LMO)や、リン酸鉄系(LFP)、ニッケル系(NCA)など様々な材料系を採用してきたが、EV向けの大容量型の電池では、ここにきて最もバランスがとれた三元系(NCM)への集約が進みつつある。三元とは、ニッケル、コバルト、マンガンを指す。