欧州の自動車メーカーや米IT大手など、世界を巻き込んだ買収合戦をブリヂストンが制した。1000億円超で獲得したのが、欧州86万台分の車両移動データ。買収の背景にあるのは危機感だ。製造業に限界を感じるのはブリヂストンだけではない。タイヤメーカーが続々とデータビジネスに活路を求め始めた。
「本当に熾烈(しれつ)な戦いだった」─。タイヤ世界首位のブリヂストン。同社の技術幹部が神妙な面持ちで振り返るのは、タイヤ事業での開発競争や販売シェアの拡大競争に関してではない。
2019年4月に欧州子会社を通じて約9億1000万ユーロ(1ユーロ=125円換算で約1138億円)で買収した、オランダ・トムトム テレマティクス(TomTom Telematics)への入札合戦についてだ。
ブリヂストンは今回の買収を、「黒いゴムの塊」だったタイヤの製造・販売業からの脱皮に向けた重要な布石と位置付ける。
ブリヂストンが入札合戦を制したTomTom Telematicsは、オランダのデジタル地図大手トムトム(TomTom)の子会社で、車両データやフリートの管理ビジネスを担う。
クルマの付加価値が所有から利用にシフトする「MaaS(Mobility as a Service)」の動きが活発化する中で、TomTom Telematicsが扱う車両の移動データはまさに“宝の山”となる。
宝の山を巡って、巨大企業も水面下で獲得に動いていた(図1)。タイヤ市場で世界首位を争うフランス・ミシュラン(Michelin)だけでなく、高級車ブランド「メルセデス・ベンツ(Mercedes-Benz)」のドイツ・ダイムラー(Daimler)、米マイクロソフト(Microsoft)や同ベライゾン・コミュニケーションズ(Verizon Communications)が入札に名を連ねた。
業界は違えど、入札に参加した各社の思惑は一致する。どの企業も、TomTom Telematicsが日々吸い上げている欧州86万台分の車両移動データに価値を見出し、次世代を生き抜く新たなサービス開発の源泉にする狙いがあった。