2025年に年間300万台超─。これは、電気自動車(EV)への急速な移行を狙うドイツ・フォルクスワーゲン(Volkswagen、VW)のEVの販売目標台数だ。これに対して、トヨタ自動車が同年に計画するのが、年間50万台のEV販売。VWの1/6以下と少ない。環境規制が厳しい欧州や中国といった市場への依存度の差、および二酸化炭素(CO2)排出量のメーカー別平均値の差がその違いを生んでいそうだ。
年間販売台数で同じ1000万台級のトヨタとVW─。だが、両社のEVの普及に向けた積極性には、大きな温度差がある。日産自動車出身でB3上級副社長の宮本丈司氏は、この理由に対する自らの分析を、自動車用電池のシンポジウム「Advanced Automotive Battery Conference Asia 2019(AABC Asia 2019)」の中で披露した(図1)。

1つは欧州・中国への依存度
同氏によれば、その理由は2つある。1つは、VWの欧州市場と中国市場への依存度の高さである。両市場はいずれも環境規制が厳しい国・地域。欧州連合(EU)では2021年に新車の乗用車の平均CO2排出量の規制値を95g/kmに強化する。加えて、2030年には同排出量を2021年比で37.5%減らすことで合意済みだ。
95g/kmという2021年の規制値は、欧州の試験サイクルであるNEDC(New European Driving Cycle)モードを前提とした値である。2030年の規制値は、これを国際基準のWLTP(Worldwide harmonised Light vehicle Test Procedure)モードに換算し、37.5%減らした値になる見込みだ。ただ、現時点の比較のために95g/kmに対する37.5%減を計算しておくと59g/km。60g/kmを切る非常に厳しい値だ。
この規制値がいかに厳しいかを物語っているのが、近年のEUにおける乗用車のCO2排出量の平均値である(図2)。EUでは2007年以来、2016年までは同平均値を着実に減らしてきたが、徐々に減少のペースは緩やかになり、2017年には前年比0.3g/km増の118.1g/km(NEDC)とついに増加に転じた。2018年は、前年比2.4g/km増の120.5g/km(同)とさらに同平均値を悪化させ、直近の4年間で最悪の値を記録した。
増加に転じた最大の要因は、VWの排ガス不正問題に端を発するディーゼル車離れだ。JATO Japanによれば、EUにおけるディーゼル車の販売成長率は、2017年には前年比8%減、2018年には同18%減。一方、ディーゼル車の同平均値はガソリン車のそれと比べて「3.2g/km低い」(JATO Japan)とされる(図3)。
EUのCO2排出量規制では、実際にはその規制値は車種構成や販売台数によって自動車メーカーごとに異なってくる。各メーカーは、課された規制値を1g/km超過するごとに、「95ユーロ×販売台数」の罰金を求められる。
一方、国内で乗用車を3万台以上生産・輸入する自動車メーカーに対して、「新エネルギー車(NEV)」を一定比率販売することを義務付ける「NEV規制」を2019年1月から導入したのが中国だ。EVや燃料電池車(FCV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)がNEVに当たる。NEVの販売に応じて付与されるクレジットを、生産・輸入台数に対して2019年は10%、2020年は12%獲得しなければならない。
所定の条件を満たしていることが条件だが、現状ではクレジットは大まかにはPHEVが2、EVが満充電時の航続距離によって2~5、FCVが5となっている。NEV規制を達成できなかった自動車メーカーは、クルマの販売制限という罰則を受けるか、同規制を達成した自動車メーカーから余剰分のNEVクレジットを購入して不足分を手当てしなければならない。
しかも、同規制は年々強化される見込み。台湾・工業技術研究院の呂学隆氏によれば、2021~23年は獲得しなければならないクレジットは毎年2%ずつ上積みされていく案が出されている。付与されるクレジットを20~50%下げることも検討されており、さらに多くのNEVを販売する必要が出てくる可能性があるという。また、日本経済新聞の報道によれば、中国の工業情報化省は2019年12月3日、「新エネルギー車産業発展計画」の素案を公表、2025年にNEVが新車販売に占める比率を25%に引き上げる可能性を示唆している。