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ホンダは新型の小型車「フィット」を、2020年2月に発売した。最大の競合車は、同時期にトヨタ自動車が発売した新型「ヤリス」である。安全・環境性能を大幅に高めたヤリスに対して、フィットは燃費性能で勝負する道を選ばなかった。“心地よさ”や単眼カメラを使った安全性能などを武器に、ヤリスとの対決に挑む。

 新型「フィット」ハイブリッド車(HEV)の燃費は、実用燃費の指標となるWLTCモードで29.4km/L。トヨタ自動車の新型「ヤリス」(同36.0km/L)に大差をつけられた。これまでフィットはヤリスなどの競合車と燃費性能で真っ向勝負してきたが、新型車では開発方針を大きく転換した(図1)。

図1 全面改良した小型車「フィット」
図1 全面改良した小型車「フィット」
センサーを刷新して、自動ブレーキを交差点における右左折や夜間の歩行者に対応させた。(撮影:日経Automotive)
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 新型車の開発責任者で本田技術研究所オートモービルセンターの田中健樹氏は、「燃費などの機能的価値は今後、付加価値として認められにくくなる。新型車では、心地よさを最大の価値にした」という。コストが重視される小型車の開発で、心地よさという付加価値を実現するために燃費改善の優先順位を下げ注1)、予防安全性能の強化などに開発リソースを優先的に投入した。

注1)新型車の開発では燃費改善の優先順位を下げたが、実際にはハイブリッド機構を刷新しており、燃費(JC08モード)は先代車に比べて約4%改善している。

自動ブレーキを交差点などに対応

 予防安全性能の面では、同社の先進運転支援システム(ADAS)「Honda SENSING」のセンサーを刷新し、同システムの主要機能である自動ブレーキや先行車追従(ACC)などの性能を高めた。

 先代車は主要センサーとして、ミリ波レーダーと単眼カメラを使う初期のシステムを搭載していた注2)。新型車ではミリ波レーダーは使わず、広角化した単眼カメラだけで車両の前方を監視する。新型カメラはフランス・ヴァレオ(Valeo)製で、フロントウインドー上部の室内側に装着する。

注2)初期のシステムでは、デンソーテン製のミリ波レーダーと、日本電産エレシス製の単眼カメラを使う。

 先代車の標準カメラは水平視野角が約50度であるのに対して、ヴァレオの新型カメラは水平視野角が約100度と2倍の広さがある。広角化によって、車両前方の広い範囲の対象物を検知できるようになった。検知距離は先代車のカメラより長い(図2)。

図2 単眼カメラを広角化
図2 単眼カメラを広角化
水平視野角が先代車の約2倍に相当する100度に広がったことで、自動ブレーキは左右の車線を走る車両に加えて、対向車にも対応できる。(出所:ホンダ)
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 カメラの検知距離を伸ばしながら広角化すると、処理するデータ量が増えるため、画像処理用のチップには高い処理性能が必要になる。そこで新型カメラのチップには、イスラエル・モービルアイ(Mobileye)の最新品「EyeQ4」を使った。

 広角カメラを使うことでホンダは、新型車の自動ブレーキを交差点の右折時における直進対向車や横断歩行者に対応させた。水平視野角が約50度の従来カメラでは、交差点の右折時には対応できなかった。