日本電産が電気自動車(EV)向け駆動用モーター事業の強化に向けて大胆な手を打った。元日産自動車幹部の関潤氏が2020年4月1日付で社長に就任。EV向けモーターのラインアップも拡充して“先制攻撃”を仕掛ける。だが、世界シェア35%という目標を掲げる同社が真っ先に取り組むべきは、生産技術の蓄積によるコスト低減だ。
日本電産は、2030年までにEV用駆動モーター市場で35%の世界シェア獲得を目標に掲げる(図1)。関氏は、同社会長兼CEO(最高経営責任者)の永守重信氏が、EV向け駆動用モーター市場攻略に向けた人材として招請したもの(図2)。2019年12月に日産自動車でナンバー3に当たる副COO(最高執行責任者)に就任したが、2020年1月に特別顧問として日本電産に入社していた。社長交代は2020年4月1日付である。

記者会見で永守氏は、「絶好の人材が来てくれた。一緒に10兆円企業を作っていく同志が見つかったと安心している」と関氏を高く評価。招請の狙いについて、「エンジンからモーターへの切り替えは過去にない技術革新。当社がそれに対応するには、ものづくりのプロが必要だ。(EV向け駆動用モーターという)社運を懸けた事業を指揮してもらう」と語る。
永守氏はEV向け駆動用モーター事業のけん引役になる存在として、かねて関氏に目を付けていた。「(関氏が日産自動車の)社長になると思い、(いったんは)あきらめたが、そうはならなかった。そこで10兆円企業を作るのに必要な人材だと言って口説いた」(永守氏)。
一方の関氏は、「『だまされたつもりで来い。必ず幸せにしてやる』と口説かれた。企業のサステナビリティーは成長の下にしかない。成長を担保するのが唯一無二の施策。そんな私に10兆円企業を一緒に目指そうとの誘いは魅力的だった」と明かす。
同氏は日産時代、長くパワートレーンの生産技術部門を担当してきた。日本電産が最も注力している中国市場にも詳しい。関氏は2013年から2018年まで中国に駐在し、日産の中国事業を統括してきた。日産の現地ブランド「Venucia」でEVを投入するために、部品のコスト低減に取り組んだ経験もある。
当面は、「いま一番頭の痛い問題」(永守氏)というEV向け駆動用モーター事業のてこ入れとして、生産能力の拡大や原価低減を図るのが関氏の役割。日本電産は2020年1月に業績の下方修正を発表。EV用モーターの「立ち上げコストが意外に大きかった」(同氏)とし、120億円の追加費用が発生したことを明かした。世界シェア35%を目指すために真っ先に取り組むべきは、生産技術の蓄積によるコスト低減なのだ。