国内のカーナビメーカーが生き残りをかけて変革に乗り出した。目指すは統合コックピット事業で主導権を握ること。カーナビ大手のパイオニアはきめ細かなソフトウエア対応、三菱電機は自動運転向けコア技術、アルプスアルパインは次世代HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)に注力する。カーナビで培った経験を強みに、次世代車への対応を急ぐ。
現在、スマートフォンのナビアプリが普及したことなどを背景に、カーナビメーカーは事業戦略の見直しを迫られている。2017年にはカーナビ大手の旧富士通テンがデンソー子会社のデンソーテンになった。2019年には同じくカーナビ大手の旧クラリオンがフランスFaurecia(フォルシア)に買収され、フォルシア クラリオン エレクトロニクスという事業部になった。
こうした中、パイオニアは2020年6月、統合コックピットの開発でメガサプライヤーのドイツContinental(コンチネンタル)と戦略提携すると発表した。コンチネンタルの統合ECU(電子制御ユニット)「HPC」に、パイオニアのエンターテインメント系ソフトウエアを搭載する(図1)。2024年の実用化を目指す。
「今回の提携は戦略的なものだが、エクスクルーシブ(排他的)なものではない」とパイオニア モビリティプロダクトカンパニー OEM事業統括グループ事業企画部 部長の大塚謙一氏は説明する。パイオニアはカーエンターテインメント系の画面デザインやUI(ユーザーインターフェース)に関するソフト技術を、コンチネンタル以外のメガサプライヤーにも提供していく考えだ。
注目すべきは、パイオニアが「ソフトベンダー」になるという点である注1)。ハードはコンチネンタル製のHPCを使う。HPCはドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)の新型電気自動車(EV)「ID.3」にも採用された。ハードとソフトを明確に分離できるアダプティブ型のECUで、外部のソフトを自由に組み込める。
パイオニアはカーエンターテインメントの領域で40年以上の実績がある。自動車メーカー向けのほか、市販向けでも高いシェアを持つ。そこで培ったカーマルチメディアの画面デザインや使い勝手の良いUI、高画質/高音質技術などのソフト技術を提供する。一方、コンチネンタルはハードとしてのHPCのほか、メータークラスターなどの安全系のソフトを自前で組み込む。
今後、クルマの価値はハードからソフトに移っていくといわれている。自動車メーカーはソフトの仕様決めを1次部品メーカー(ティア1)ではなく、ソフトベンダーと直接行うようになる。パイオニアは統合コックピットの画面デザインやUI設計などの詳細については、自動車メーカーと直接やり取りすることを想定する。
また統合コックピットでは、単にメータークラスターとエンターテインメントシステムを1つにまとめるだけでなく、先進運転支援システム(ADAS)やドライバー監視システム(DMS)など、さまざまな情報を取り扱う。「ADASやDMSは他社のシステムであっても、そのデータを受け取って、画面上でユーザーにどう見せるか、どう操作させるかといった点は、パイオニアがノウハウを提供する」(大塚氏)。
その一方で、カーエンターテインメント系のデザインやUIを手掛ける他の企業とは、真っ向から競争になる。「エクスクルーシブな提携ではないので、コンチネンタルが他のマルチメディア系ベンダーと組むこともあり得る」(同氏)。エンターテインメントの分野で培ったソフトの強みが本当に通用するのか、パイオニアの真価が問われることになりそうだ。