米Tesla(テスラ)の長期戦略が見えてきた。2020年9月に開いた電池事業の説明会「Battery Day(バッテリーデー)」で、コストを従来品から半減させたリチウムイオン電池を内製すると発表。30年には3TWhもの生産能力を自社で抱える計画で、年間2000万台の電気自動車(EV)を製造できる体制の構築を目指す。だが、狙うのは世界最大の自動車メーカーという称号ではなさそうだ。
100万マイル(約160万km)走行できる超長寿命のリチウムイオン電池「ミリオンマイルバッテリー」の発表があるのではないか─。噂されていた夢の電池の公開を期待した投資家たちは肩透かしを食らい、Battery Day翌日のテスラの株価は10%下がった。
確かにテスラは、超長寿命な電池を発表せず、“次世代電池の本命”とされる全固体電池にも言及しなかった。それでも、「4680」と名付けた新型のリチウムイオン電池の内製に本腰を入れるという決意表明には大きな意味がある(図1)。
電池の内製化を機にテスラが狙うのが、EV市場の「プラットフォーマー」だ。電動化技術だけでなく、自動運転技術や車載電子基盤などを含めて、広く他社に外販する考えだ。
「ソフトウエアのライセンス供与や、パワートレーンと電池を他社に供給する用意がある」。同社CEO(最高経営責任者)のElon Musk(イーロン・マスク)氏は20年7月28日、自身のTwitter(ツイッター)でこう宣言していた。
自社開発した車載コンピューター「HW3.0」を中核に据えた「中央集中型」の車載電子基盤はトヨタ自動車やドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)など他社に比べて6年ほど先行しているとされる。自動運転システムは、ソフトウエアを無線で更新するOTA(Over The Air)によって機能を拡張させる仕組みを導入済みだ。
これらの最新技術を載せて手ごろな価格のEVプラットフォームに仕立てるためには、低コストな電池が欠かせない。EV用電池パックの価格は現在「150ドル/kWh前後(1ドル=105円換算で1万5750円)」(ある国内自動車メーカーの電池技術者)だが、「コストが下がるペースが鈍くなってきた」(同技術者)という。
理由は需要と供給のバランスだ。VWをはじめとする欧州勢や中国勢などEVを推進する自動車メーカーを中心に、電池の調達合戦が激しさを増している。象徴的なのがホンダの量産EV「Honda e(ホンダ イー)」で、EV用電池ではなくプラグインハイブリッド車(PHEV)用の電池をパナソニックから調達することになった。旺盛な需要を考えれば、「電池メーカーが電池の価格を下げる理由はない」(同技術者)。
その課題はテスラも認識している。同社はパナソニックに加えて、20年に入って中国CATL(寧徳時代新能源科技)や韓国LG Chem(LG化学)と調達契約を結んだが、「電池パックの単位容量あたりのコスト(ドル/kWh)の低減が十分に進んでおらず、ここ数年は高止まりの状態が続いている」(マスク氏)と認める。
こうした状況を打破する手段としてテスラが用意したのが、リチウムイオン電池の内製化だ(図2)。コスト低減を重視した新型電池を開発し、少量の試験生産を始めた。テスラは内製する電池の生産能力を「2022年までに100GWh、2030年までに3TWh(3000GWh)に増やす」(同氏)計画である。