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車を悪者にしない─。自動車メーカー各社が異例の開発スピードで対応したのが、アクセルペダルとブレーキペダルの踏み間違いによる急発進を抑制する後付け装置だ。きっかけは、2019年4月に東京・池袋で発生した事故。社会課題となってきた高齢者による自動車事故をどう防ぐか。開発の舞台裏に迫った。

写真:日刊現代/アフロ
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 「高齢者の交通事故の抑制に向けて、スピード感を持って対策を講じる必要がある。後付けの踏み間違い防止装置の普及が重要で、対応可能な車種を拡大してもらいたい」

 2019年7月5日午後、国土交通省の会議室に国内大手自動車メーカー8社の幹部が並んでいた。彼らを前に国交省の工藤彰三政務官(当時)は、アクセルペダルとブレーキペダルの踏み間違いによる急発進を抑制する後付けシステムの開発を強く要請した。

 自動車メーカーの反応は速かった。20年9月2日に日産自動車が「後付け踏み間違い加速抑制アシスト」を発売したことで、大手8社すべてが既販車向けの後付け安全装置を販売できる体制が整った(図1)。一般に自動車技術の開発には数年の時間が必要とされる中で、わずか1年2カ月という期間での対応は異例のスピードといえる。

図1 ペダルの「踏み間違い」や「踏みすぎ」による急加速を抑制
図1 ペダルの「踏み間違い」や「踏みすぎ」による急加速を抑制
日産は既販車向けの後付け安全装置「後付け踏み間違い加速抑制アシスト」を20年9月に発売した。加速を抑制すると同時に、車内の表示機に警告を出す。小型車「ノート」への適用を皮切りに、対象車種を拡大していくという。(出所:日産自動車)
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 並行して国交省では、水面下で準備してきた後付けの踏み間違い防止装置の性能認定制度の開始を前倒しする検討に入った。「当初計画では令和2年度(20年度)から始める予定だったが、『先行個別認定』という形で令和元年(19年)10月に開始することにした」(国交省自動車局技術・環境政策課課長補佐の玉屋博章氏)。同制度は、先進安全技術が一定の性能を有していることを認定するもの。