全6087文字
PR

次世代車の“頭脳”ともいえる統合ECU(電子制御ユニット)を巡り、半導体メーカーの競争が激化している。セントラルゲートウエイ向けの車載SoC(System on Chip)でルネサスエレクトロニクスに先を越されたオランダNXP Semiconductors(NXPセミコンダクターズ)は、独自のアクセラレーターを搭載した新製品で巻き返しを狙う。対するルネサスは高速・低電力のAI(人工知能)回路技術を強みにシェア拡大を目指す。車載プロセッサーで2強といわれる両社の競争によって、統合ECUの進化が加速しそうだ。

写真:NXPセミコンダクターズ、ルネサスエレクトロニクス
写真:NXPセミコンダクターズ、ルネサスエレクトロニクス
[画像のクリックで拡大表示]

 「2022年以降のトレンドの1つが、セントラルゲートウエイにボディー系のドメインECU(電子制御ユニット)を取り込む動きだ」。オランダNXP Semiconductors(NXPセミコンダクターズ)の日本法人であるNXPジャパン 第一事業本部 マーケティング統括部 車載マイクロコントローラ部 部長の山本尚氏はクルマの電気/電子(E/E)アーキテクチャーの進化をこう説明する(図1)。

図1 E/Eアーキテクチャーの進化
図1 E/Eアーキテクチャーの進化
(a)現在主流のドメイン型では車載ネットワークのルーター機能をつかさどるセントラルゲートウエイに、ADAS/自動運転系、通信系、情報/コックピット系、パワートレーン/シャシー系、ボディー系の各ドメインECUがつながる。今後はECUを車両の場所ごとに分割するゾーン型が登場する見通しである。(b)NXPジャパンの山本尚氏。(出所:NXPセミコンダクターズ)
[画像のクリックで拡大表示]

 先行事例として、ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)の電気自動車(EV)「ID.3」がある。ID.3が搭載する統合ECUの1つ「ICAS1(In-Car Application Server 1)」は、セントラルゲートウエイとボディー系ドメインECUの両方の機能を持つ。ただ、ICAS1は心臓部となる車載SoC(System on Chip)にルネサスエレクトロニクスの「R-Car M3」を採用した。NXPにとってはルネサスに先を越された格好だ。

 NXPとルネサスは車載プロセッサー市場では2強である(図2)。今回ルネサスの車載SoCがID.3に採用された背景として、複数の業界関係者がNXPの車載SoC開発の遅れを指摘している注1)。16年に米Qualcomm(クアルコム)がNXPの買収に乗り出したものの、米中貿易摩擦を背景に中国の規制当局による承認が得られず、18年に買収を断念した。「この影響でNXPの車載SoC開発が遅れた可能性がある」(業界関係者)という。

図2 車載プロセッサー市場ではNXPとルネサスが2強
図2 車載プロセッサー市場ではNXPとルネサスが2強
今後、統合ECU向けの車載SoC市場が本格的に立ち上がると、半導体メーカーの勢力図も変わる可能性がある。(出所:NXPセミコンダクターズ)
[画像のクリックで拡大表示]
注1)ルネサスは、同社の車載SoCがVWのID.3に採用されたのは、過去のソフト資産を再利用できる点が高く評価されたからだと説明している。一方、NXPの山本氏は、次のようにコメントした。「以前はECUに各社各様のOS(基本ソフト)を使っていたため、一度作ったシステムはハード(チップ)を変更しにくかった。これに対し、AUTOSARやLinuxをベースとする最新の統合ECUは、OSベンダーがハードの違いを吸収してくれるため、ハード変更に伴う問題が少ない。ただし、ハードの性能によってはタイミング制御や通信などを考慮する必要がある。また、自動車メーカーが開発する“ビークルOS”によっては、AUTOSARやLinuxで割り切れない要素もあり、過去のソフト資産が重視される場合もある」。