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FCセルは構造も生産方法も見直し

 設計変更の分かりやすい例が、FCスタックのセル数である。最高出力を初代の114kWから128kWに高めつつ、セル数を370枚から330枚に減らした。これで、セルを積み重ねる工程を40枚分少なくできた。性能を犠牲にしているわけではなく、体積出力密度で比較すると3.5kW/Lから5.4kW/Lに高めている(図5)。

図5 出力密度を世界最高水準の5.4kW/Lに
図5 出力密度を世界最高水準の5.4kW/Lに
新型ミライが搭載する第2世代のFCスタックの体積は24Lで質量は24kg。第1世代品は体積33Lで質量41kgだった。(出所:トヨタ自動車)
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 セル単体の構造も見直した。セルは、水素と空気中の酸素を反応させるMEA(Membrane Electrode Assembly、膜電極接合体)を、水素と空気の流路(ガス流路)を成形したセパレーターで挟んで構成する。MEAの中心には電解質膜があり、外側に向かって順に「触媒(電極)層」「ガス拡散層」が並ぶ。

 新型ミライのセルは、セパレーターの数を従来の3枚から2枚に減らした。削減したのは空気極側。初代は2枚のチタン(Ti)製のセパレーターを使って、ガス拡散層とセパレーターの間に空気が流れやすいように3次元の流路「3Dファインメッシュ流路」を設けた。化学反応によって生成した水を排除するとともに空気の拡散を促進するのが目的だ。新型車は「1枚のTi製セパレーターで同等の空気の拡散性を実現できる構造にした」(田中氏)という。

 MEAの生産性も格段に向上させた。先代車では十数分かかっていた1枚当たりのセル生産サイクルタイムを数秒まで短縮した。電解質膜に触媒材料を塗工・定着させるのに多くの時間が必要だったが、「紫外線を照射して材料を固定させる生産技術を導入した」(同氏)ことで劇的な時間短縮を実現した。

 水素タンクは、70MPa以上の高圧水素に耐えられる強度を確保する役割を担うCFRP(炭素繊維強化樹脂)層を見直した。清水氏によると、「CFRPの巻き方を変えることで生産性を3倍に高めた」という。これまでより少ない量のCFRPでも十分な強度を達成した。

 もう1つ、水素タンクで注目すべきは直径だ。初代ミライは2本の水素タンクを搭載していたが、長さも直径もばらばらだった(図6)。一方の新型ミライは3本の水素タンクを積む。長さこそ異なるが、「直径は3本とも同じ」(田中氏)なのだ。直径をそろえることで、タンクの製造装置を統一できた。CFRPの巻き方をはじめとするタンクの設計・開発費も抑制できたとみられる。

図6 FCシステムの部品配置を刷新
図6 FCシステムの部品配置を刷新
前席下にあったFCスタックをフロントフード下に移動したことで、後席の乗員が足を伸ばせるようにした。水素タンクの直径は小さくなっており、車両の全高を65mm下げられた。駆動用モーターは後輪側に搭載する。(出所:トヨタ自動車)
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 こうして誕生した新型ミライの価格は710万円(税込み)から。初代の発売当初の価格723万6000円に比べて価格を抑えつつ、「FCVである以前に700万円という価格に見合うようなデザインや装備を目指した」(清水氏)。

 新型ミライは、1回の水素充填での航続距離は先代車に比べて30%以上長い約850km(WLTCモードでGグレードの場合、Zグレードは約750km)にした。車両寸法は先代からひと回り大きくし、全長は85mm長く、全幅は70mm広くなった。これにより、乗車定員は4人から5人に増やせた。水素タンクやFCスタックの配置を変更したことが、室内空間の拡張や低重心な外観デザインにつながった。