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次の一手はシステム外販

 新型ミライを投入したトヨタがFCV普及に向けて打つ次の一手は、FCシステムの用途拡大だ。既に、「トラックや鉄道、船舶、定置用など、様々な用途での利用を検討する事業者から要望が届いている」(同社ZEVファクトリーZEV普及推進室水素FC事業推進グループの安田尚寛氏)という。

 トヨタは自社製品に限らず、FCシステムを広く外販していく方針だ。特に需要が大きいのがトラックやバスなどの商用車。中国の商用車メーカーは早くも、「トヨタのシステムを適用できるか検討している段階に入った」(同社ZEVファクトリーZEV普及推進室水素FC事業推進グループ主幹の手嶋剛氏)。欧州も商用車のFC化に積極的という。

 トヨタは仲間を増やして量産規模を確保すべく、定格出力が60kWと80kWのFCモジュールを開発した。21年春以降に外販を始める予定である(図7)。豊田自動織機も定格出力8kWの小型FCモジュールを開発。開発中の同24kW品と50kW品を加え、両社の計5種類で幅広い用途への適用を目指す。各FCモジュールには、新型ミライのFCスタックを共通して使う。

図7 5種類のFCモジュールを開発・外販へ
図7 5種類のFCモジュールを開発・外販へ
21年春以降に外販を開始する。トヨタが開発した定格出力60kWと80kWのモジュールは縦型と横型を用意する(図の写真は横型品)。豊田自動織機が開発した小型FCモジュールは定格出力8kW。同24kWと50kWのFCモジュールも開発中である。(出所:トヨタ自動車、豊田自動織機、日経クロステック)
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 「FCシステムは“搭載すること”自体のハードルが高かった」─。こう明かすのは、トヨタZEVファクトリー商用ZEV製品開発部部長の吉田耕平氏だ。大きく重いFCシステムでは、搭載空間に限りがある乗用車や小型トラックには載せにくい。他部品の搭載空間まで奪いかねない。小さく軽いFCシステムを実現できれば、搭載レイアウトの自由度を高められる。車両の燃費・電費を向上したり、積載空間を確保できたりする。

 セル出力密度を高めた小さく軽い第2世代のFCシステムによって、搭載のハードルを引き下げ、外販に向けた準備を整えた。開発したFCモジュールは、空気供給、水素供給、冷却、電力制御など、関連部品をFCスタックと組み合わせて1つの箱に収めている(図8)。箱の素材は検討中だがアルミニウム(Al)板金が有力である。顧客の要望によっては箱の中身だけを供給する。

図8 トヨタが開発したFCモジュールの部品構成
図8 トヨタが開発したFCモジュールの部品構成
FCスタックとFC昇圧コンバーターに加え、空気や水素の供給システム、冷却機構などを組み合わせて1つの箱に収めた。(出所:トヨタ自動車)
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 トヨタが開発した定格出力60kWと80kWのFCモジュールは対応電圧の範囲が400~750Vと広い。FC専用の昇圧コンバーターを内蔵したことで、モーターとインバーター、電池パックといった電動車両の基幹部品に接続しやすくした。豊田自動織機の小型FCモジュールの対応電圧は48Vであり、DC-DCコンバーターを介して電気を出力する。

組み合わせて大型化

 定格出力が最も小さい8kWのFCモジュールは、全長542×全幅610×全高440mmで、質量は113kgである。より高出力の同60kWと80kWでは、縦型と横型を用意して多様なレイアウトに対応しやすくした。縦型は、全長890×全幅630×全高690mmで、質量は約250kg。横型は、全長1270×全幅630×全高410mmで、質量約240kgである。

 豊田自動織機の小型FCモジュールは、建設機械や農業機械、定置発電機などへの適用を想定する。工場や商業施設、自治体への供給を目指す。トヨタの大型FCモジュールは、乗用車やバス、トラックに加え、鉄道や船舶といったモビリティーへの適用を想定する。豊田自動織機と同じく定置発電機にも使う。

 顧客が求める出力に応じて、各モジュールを組み合わせて大型化も可能にした。出力別に5種類のFCモジュールを展開することは、組み合わせの選択肢を広げる効果がある。

 FCモジュール外販に対する市場の期待値は高まっている。「トヨタからFCを仕入れることも選択肢の1つ」。こう話すのは、競合であるドイツDaimler(ダイムラー)傘下の三菱ふそうトラック・バスの技術者だ。

 また、自治体向けのFCゴミ収集車を手掛けた早稲田大学客員准教授の井原雄人氏は「FCモジュール外販には注目している。量産効果が利くトヨタ製品は費用対効果に優れ、一定以上の信頼性もある」と期待を寄せる。