全6136文字
PR

船舶・鉄道・定置発電機に

 FCモジュールの外販だけではなく、引き続き自社グループでの多用途の展開にも注力する。これまで、先代品を使って小型トラックや大型トラック、バスを開発してきたトヨタ。今後は第2世代のFCシステムを活用した開発に移行する(図9)。一般的なFCVだけではなく、内燃機関や蓄電池を搭載したあらゆる需要の代替に向けて技術開発を続ける。

図9 多用途にFCシステムを展開へ
図9 多用途にFCシステムを展開へ
トヨタはこれまで先代FCシステムを使って小型や大型トラック、バスなどを開発してきた。今後は第2世代を活用した開発に移行する。(出所:トヨタ自動車)
[画像のクリックで拡大表示]

 第2世代のFCシステムの活用で先陣を切ったのが大型FCトラックだ。20年12月、トヨタの北米事業体Toyota Motor North America(TMNA)が、新たな大型FCトラックの試作車を公開した。

 同車はトラクター(けん引車)タイプで、トレーラー(被けん引車)と連結してコンテナなどの荷物を運ぶ。主に港湾地域で活用する。荷重量は約36トン、航続距離は約480km以上としている。

 米Kenworth(ケンワース)製のトラック「T680」をベースに共同開発した。「FCシステムの大部分をボンネット下部に配置変更し、モーターを小型にすることでホイールベースを短縮した」(TMNA電動車・先進技術部門製品開発室エグゼクティブプログラムエンジニアのChris Rovik氏)という。車両の操作性向上に貢献する。

 自動車メーカーであるトヨタとしての変わり種は、鉄道や船舶へのFCシステム適用だ。鉄道では、JR東日本や日立製作所と組みFCと蓄電池を組み合わせたHEV仕様の試験車両を開発する。60kWのFCスタックを4個搭載し、航続距離は最大140kmとする。22年春の実証実験を目指す。2両1編成の鉄道車両で、片方の車両にトヨタのFCシステムを搭載し、もう片方には日立の蓄電システムを載せる。HEVによる駆動システムも日立が手掛ける。

 船舶では、トヨタの欧州事業を統括するToyota Motor Europe(TME)が世界一周航海のフランス船「エナジー・オブザーバー号」向けにFCシステムを開発した。船舶の寸法は全長31×全幅13×全高12.85m。質量は34トン。遠洋航海時の搭乗人数は8人とする。20年に出航した同船は、先代品のFCシステムを搭載しているとみられる。今後再びFC船舶を開発するとなれば、第2世代のFCシステムに出番が回りそうだ。

耐久性の確保が重要課題に

 もっともFCシステムの多用途展開には難しさもある。トラックやバスなどの商用車では稼働率の向上が競争軸になる。長距離を休みなく走ることが多く、ひとたび故障すれば運用者の収益減に直結する。そのため、高い耐久性能が必要になる。

 一般的に、乗用車は20万km、中型バスは60万km、小型トラックは100万km弱、大型トラックは100万km以上が耐久距離の目安とされる。車検で部品を交換することはあっても、これらの距離は最低限故障なく走りきらなければならない。FCVとして既存車両からの代替を狙うなら、同水準の耐久性を達成する必要がある。

 FCスタックのセル電圧が高電位の時や、その電位変動の繰り返しが触媒の劣化を招く。車格が大きいほどその傾向は顕著になる。トヨタのFCバス「SORA(ソラ)」では、FCスタックに高電位の状態で稼働させないよう、ニッケル水素電池と組み合わせて高出力時をカバーした。高電位での発電回数が減れば、結果として電位の変動は緩やかになり、高分子膜やカーボン、Ptなどの劣化を遅らせられる。

 さらに耐久性の確保が難しいのが定置発電機だ。乗用FCVや商用FCVなら、水素の再充填時、FCシステムの稼働を止めてスタックを休ませることができる。一方、定置発電機はそうはいかない。水素を適宜充填して長期間稼働を続ける場合もある。このとき、長期間にわたって高電位の状態が続かないように、劣化防止に向けた策を打たなくてはならない。

 トヨタの吉田氏は「FCシステムの多用途展開についてはまだ学ぶことが多い。経験値の積み上げが必要になる」と語る。

 同社は今後、より安価で小さく軽い「第3世代」のFCシステム開発に向かう。FCモジュールの外販や、自社グループでの多用途展開を通して経験を積み、用途ごとの劣化パターンを見極める。そして、劣化しにくく耐久性が高いFCスタックをつくり上げていく。