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写真:現代自動車
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電気自動車(EV)の火災事故が後を絶たない。中国政府は2021年2月、米Tesla(テスラ)の中国法人に対してEVに搭載されている電池の発火などの問題について行政指導を実施したと発表した。韓国Hyundai Motor(現代自動車)がリコール対応を進めているEV「Kona Electric」の発火問題も収束が見えていない。信頼回復に向けて、自動車業界が動き出した。

 「業界に先駆けて電池管理システム(BMS:Battery Management System)を無線化するとともに、遠隔で監視したり(ソフトウエアを)更新したりできるようにする」。こう語るのは、米GMのExecutive Vice PresidentでCTO(最高技術責任者)を務めるMatt Tsien(マット・チェン)氏である。

 20年代半ばまでに30車種ものEVを投入する計画のGM。EVシフトを加速させる上で欠かせないのが、車両品質の確保だ。同社は20年11月に小型EV「Chevrolet Bolt EV」のリコールを発表(図1)。火災事故防止のために電池の充電率を90%以下に制限するソフトウエアを用意し、ディーラーなどを介して配布を進めている。

図1 電池発火でリコールを発表したGMのEV「Chevrolet Bolt EV」
図1 電池発火でリコールを発表したGMのEV「Chevrolet Bolt EV」
電池サプライヤーは韓国LG Energy Solution(LGエナジーソリューション)である。(出所:GM)
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 今後投入するEVでも、発火などの不具合を最小化していく上で、電池の過電圧や過昇温、漏電などの異常を検知するBMSが担う役割は大きい。そこでGMは、21年末以降に量産を開始する予定の新世代のEVプラットフォームに、新しいBMS「ワイヤレスBMS」を採用することを決めた(図2)。

図2 GMの次世代EVプラットフォームはBMSを刷新
図2 GMの次世代EVプラットフォームはBMSを刷新
新型リチウムイオン電池「Ultium(アルティウム)」を搭載する。電池管理システム(BMS)を無線化することで、配線量を最大で90%削減できたという。(出所:GM)
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 チェン氏が言及したように、GMはBMSの性能を遠隔更新で改善/向上する「OTA(Over The Air)」に対応させる。ワイヤレスBMSは電池性能を自己測定する機能を備え、異常があればGMのデータセンターに伝える。不具合を解消するソフトウエアを無線配信することで、早急に火消しする体制を構築する。

 GMが電池の発火対策に躍起になる理由の1つは、次世代EVプラットフォームの開発パートナーが起こした失態にある。21年末以降に量産を開始する新プラットフォームに搭載する新型リチウムイオン電池「Ultium(アルティウム)」を共同開発する韓国LG Energy Solution(LGエナジーソリューション)が品質問題で揺れているのだ。

 LGエナジーソリューションが電池を供給した韓国Hyundai Motor(現代自動車)のEV「Kona Electric」が、電池の発火でリコールを実施することが決まった。世界全体で約8万2000台と大規模で、リコール費用の総額は1000億円前後に上るとされる。韓国メディアの報道によると、費用分担は現代自動車が3割、LGエナジーソリューションが7割になるという。

 EVメーカーへの転身を図るGMにとって、心臓部の電池の不具合は将来の成長を左右する。様々な策を講じて安全性を確保することが急務なのだ。